クラリッセ・リスペクトル『星の時』

クラリッセ・リスペクトル『星の時』福嶋伸洋(訳),2021年,河出書房新社

思えば、彼女にとって神様だけでなく現実も希薄なものだった。非現実とのほうがうまくやっていけた。スローモーションで丘の上をゆっくりと跳ねるウサギみたいに生きていた。地上は空虚、自然もまた空虚だった。

pp.59
  • 現実世界よりも言語世界に生きている

実際にはどれだけひどくても、驚くべきことに、子どもの頃の思い出は魅惑に満ちている。彼女は何についても不平を言ったことがなく、物事はこういうものなのだと知っていた――誰が人間の住む地上をこんなふうにしたのか? まちがいなく彼女はいつか、ひねくれ者しか入ることのできない、ひねくれ者たちの天国に行くだろう。そもそも、天国に行く以前に、地上でもひねくれていた。

pp.60-61
  • まるで別の世界に住んでいるみたい

あんなに見た目が、見た目が、見た目がいい人と、どうやったら結婚が、結婚が、結婚ができるんだろうと、彼女はどもりながら考えた。(中略)それで、彼女は一日くらい休んで背中の疲れを取りたいと思ったのかもしれない。(中略)それで次の日、四人のマリアが疲れを引きずって仕事に行ったあと、彼女は生まれて初めて、孤独という、最も貴重なものを手に入れることができた。部屋は彼女だけのものになった。自分だけが使える空間があるなんて、信じられなかった。(中略)自分自身に出会うということは、彼女がそのときまで経験したことのない幸せだった。

pp.74-75
  • 欲望が現実世界と言語世界に生きる主人公とを繋げた

  • 主人公ははじめて現実世界に自分の空間を知覚した

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