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雨の日の夕焼け


5月、一番好きな月。

スタートを切れそうな力を、新緑からもらえる。

こもれびがまぶしくて、キレイで、
七色を全部集めた 白い光に癒される。


世界がモノクロに見える雨の日と対照的に
晴れの日は、瞳で確められるすべての色がひとつになって私に届く、白い光線。

葉っぱの緑も、青空と、夕焼けと それから川も…

みんな光の反射で 輝いて見える。



新しい世界に思い切って飛び込んだのも、
5月だった。

世界なんて大袈裟な言い方だけど、

アルバイトで接客業を経験するのは、私にとってすごく難関な挑戦だった。


ちょうど母の日が近くて カーネーションが、たくさん売れたっけ。

母に、鉢植えのカーネーションを買って家に帰ったけど すぐに枯れてしまった。


働けることが嬉しくて、店長がスタッフが
みんな優しくて 「生きてる」って体中で感じていた。

人とつながる 一番尊いことを教えてもらった。



懐かしい。もう遠い過去になってしまったけど。


今日の夕飯は寒いからなべにするって
母に「鍋のつゆ」買ってきて、と 頼まれた。


コンビニにも100円ショップにも置いてなかった。
5月に鍋のつゆなんて 置いてるわけないじゃろい

って突っ込みを入れた。

家を出た時、ちょうどマジックアワーで
夕焼けが すごくキレイだった。

バイトしていた時、店長が

「夕日、きれいだね。 ロマン派なの」 って

冗談を言って、和ませてくれた。


鍋のつゆを探してるうちに日が暮れて暗くなり、あの店の照明が、
私が人生で1番多く見た看板に 明かりが付いて、

まっすぐ歩いて行った。

こわいな。やっぱり引き返そうか…

だけど 懐かしい思い出が 私を店へ引き寄せる。


入口の自動ドアが開いて 中に入ろうとした瞬間、


「いらっしゃいませー」

と、後ろから聞き覚えのある声が聞こえて来た。


とっさに 後ろを振り返ったけども、

視線を合わせるのが怖くて 声の主の顔を見られない。だけど確かに姿は、店長だった。


緊張したまま、広い店内を見て回って 5分くらい経過した。

自分でもよく分からない感情がわいてきて、泣きそうになる。

あの頃の私、どこにいっちゃたんだろう。


私を受け入れてくれたこの店。

お世話になったスタッフの人達。今の私の姿を
見られたくない、恥ずかしい。


こんなはずじゃなかったのに。


涙がこみ上げてくる。

ダメだ、過去に浸ってちゃ 私は今必要なものを、買いに来たんだから。


何も買わなくても、店内を歩くだけでも このお店には 私のほしいもの 求めているもの すべてがある。

うつむかないで 前を見て、笑顔で。


鍋のつゆは諦めて、
資材館の園芸用品売り場で ハサミを買おうとした。

「レジあげちゃっていいよ」

かつて何度も言われたセリフが きこえて、
レジへ急いで向かうと、店長が私の方を見て

「あっ、どうぞ」

と、敬語で誘導された。


私は客として 園芸ハサミを購入する。
テンパって小銭入れの在り処もわからなくなる。
慌てて 500円硬貨を差し出した時、
蛍の光が流れ出した。閉店の合図。

この瞬間が1番好きだった。今日も できた…って。
許されたような気持ちになる。
色んな思いを、なんとか堪えながら店を出た。


真っ暗な帰り道。
だけど 私の好きな色の夕焼けが見えたから。
明日はきっと 晴れるから。







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