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やっと『Science Fictions』を読めた

そういえば読んだのに書いていなかった。

本書の邦訳が出るまで長かった。俺が本書の存在を知ったのは2020年12月である。

俺は様々な研究を元に与太話を書くのが好きである。それでいつものごとくステレオタイプ脅威について記事を書いたら、ツッコミが入った。元になった実験の再現性はあまりない、と。再現性が無い、もしくは弱い効果しかないネタが、科学の世界には多々ある。それについて書いているのが、本書『Science Fictions』であると知ったのだ。

残念なことに英語が苦手な俺は当時読むことができなかった。代わりに日本語で読める無料の論文があったので、それで「再現性の危機」について把握できた。

とはいえやはり『Science Fictions』を読みたいとは思い続け、ようやく邦訳が出たわけだ。俺としては珍しく、セールを待たずに発売してすぐ買って読む。

基本的な原理は上の論文や『生命科学クライシス』を読んでいたので知っていたが、やはり事例が豊富で面白い。「ステレオタイプ脅威」もちゃんと紹介されている。これは他の心理学と同じ問題、「弱い理論」と「審美基準」が問題の根本にあるわけだが、加えて本書では政治的バイアスが影響している (かもしれない) 事例として取り上げられていた。心理学者はリベラルが多いので、つい思想に合致する研究に甘くなってしまうのではないか、と。

とまあ、念願の本をやっと読めたわけだが、やはり俺が最も印象に残るのは「インセンティブとプレッシャー」の話である。研究者は研究資金を獲得するためには成果を出し続ける必要がある。だから斬新で話題になる研究を求め、論文を量産する。結果、再現性の無い、問題のある研究が生まれてしまうわけだ。

インセンティブとプレッシャーを与える人々は、こうなることを望んでいたわけではないから困る。精力的に価値のある研究者に多くのリソースを与えたいという、ごく当たり前のことを望んだだけだ。しかしそれによってむしろ研究の質は悪化した。人々の行動をコントロールするのは難しい。Xのインプレゾンビも同じだ。誰も悪くしようとは思っていない。ただ上手くいかないだけなのだ。

ところで今日のnoteで本書について取り上げたのは、これを読んだのがきっかけだった。

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