『火の話』 作・黒田征太郎 石風社
名前もなく、服もなく、そこにあるものだけで生きていた時代。それは、どれくらい昔なんでしょうか。
私の生まれた頃には、車もテレビもあった。あったかいお風呂にも入れた。
昔は、火はこわいもの、恐ろしい物だった。 火が吹き上り、山火事がおこる、手に負えない自然の大きい脅威でした。
その中で、ニンゲンは”知恵”を出し合い協力しながら生きていたので、火の神様は、ニンゲンに火をあげたいと思ったのです。
火の神様”ヒノコ”。
ヒノコは、ニンゲンの知恵を信じて、火をあげるんです。きっと、みんなが火を扱えると幸せになるだろうと思ったんでしょうね。
ニンゲンは、火のおかげで、身体が温まり病気をしなくなりました。火を囲んで楽しいお話も弾み、歌が生まれました。火は、人を穏やかにするものでした。
ある時から、ニンゲンは、火の力を利用して、道具や機械を発明します。そして、自然を壊すようになりました。
”もっと ゆたかになりたい”
”もっと ぜいたくしたい”
豊かさの競い合い、奪い合い、譲り合わないニンゲン同士でケンカがはじまり、火の武器を作るようになってしまいました。
火の神様、ヒノコはそれでもニンゲンを信じつづけます。ニンゲンの”知恵”を別のものにつかうように、見続けていました。けれども、変わらない人間の諍い、乱暴な火の使い方をするニンゲンに、ヒノコは、
イナズマになり代わり、時には洪水になって、
”気づきなさい”
とメッセージを送ります。それでも響かないニンゲン。
火を使って作った、原子エネルギー。
ニンゲンは、原子爆弾を作り、原子爆弾で死にました。目に見えない、放射性物質が、空や海に大地に撒き散らされたのです。
火の神様、ヒノコは、それでも信じています。
ニンゲンの”知恵”ではなく、”魂” に。
扱い方で、良い方にも悪い方にもなる。 人間の賢さ、愚かさが目に見えてわかります。
『足るを知る』
その心が、人を想い自分を想い、自然を想える。大事な大事な、人間の心を描いている絵本です。
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