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『世界「倒産」図鑑』から『負けない戦い方』を学ぶ

本の紹介者:あい https://note.com/ai_h

こんな人に読んで欲しい
・失敗事例から、普遍的な教訓を得たいと思っている人
・外部環境の変化に影響されずに生きていきたい、と考えている人
・企業の歴史、ストーリーを知りたい人

1.負けに不思議の負けなし。失敗を避けるために、過去の事例を知る。

 先行きが見えない今。売上を大きく減少させた企業は多数あります。一方で、事業を転換したり、たまたま時代の潮流に合っている事業を進めていたことで売り上げを伸ばしている企業もあります。
 成功事例を知ることは、自社の可能性を見出すことにつながりますし、気持ちも前向きになります。

 ただ、それが「ジレンマ」になる場合もあります。他社はあっという間に事業を転換してスタートしているのに、自社は出遅れている、大丈夫だろうか、というモヤモヤです。
 また、他社の成功事例が自社に適合するかどうかは別です。なぜなら、組織体制、チームがその成功事例を実行できる形になっているかどうかは、別だからです。

 そういう時は、「負けない戦い方をする」ことが、生き抜くことにつながるかもしれません。故野村監督も「負けに不思議の負けなし」と言っていましたね。

 「負けの原因を知り、同じ轍を踏まないようにする」。これが、私たちに今すぐにできることかもしれません。

2.「脆弱シナリオ」に着目

 この本では、25社の「倒産」をいくつかのパターンに分類しています。その中でも「今」注目すべきは「脆弱シナリオ」です。

図1

 脆弱シナリオとは、「不安定な事業シナリオに依存しているので、何か合ったら終わってしまう」パターンです。例として挙げられている中で、個人的に最も気になったのは「鈴木商店」。
 外部環境の変化を活かして伸び、変化に打撃を受けて沈んでしまった企業です。


 1874年にローカルな貿易企業として発足した同社は、神戸港の開港を活かして和糖より安価な洋糖を輸入。さらに台湾が日本の領土になったことをチャンスと捉え、台湾開発に参画、砂糖だけでなく鉄鋼や海運、造船まで多角化を進めます。
 あれよあれよという間に三井三菱と並ぶ商社に成長。しかし、第一次世界大戦の終結に伴う条約により、軍艦は建造中止。その中での関東大震災――――。事業を継続できなくなりました。

 この背景だけをサラッと読むと「外部環境の変化はアンラッキーだった」という話になってしまうのですが、この本では「ヒト・モノ・カネのアンバランスさ」が鈴木商店が倒産した根本原因だと読み解いています。

・事業構成(モノ):不安定な貿易業だけではなく、ベース収入を生み出せる事業をポートフォリオとして持っておくと良かった。
・資金調達(カネ):資金の調達先が自分の息がかかった台湾銀行に偏っていた。調達源を分散しておくと良かった。
・人材(ヒト):番頭によるワンマン経営。商才があるがゆえに事業機会が見え過ぎて、お金を次々と投資。それを誰も止められない状態だった。

 このように、失敗した「事実」を捉えるだけでなく「何が原因だったのか」を深堀りして考えると、抽象化されて自分自身に引き寄せることができます。

3.満は損を招き、謙は益を受く

 中国の『書経』に「満は損を招き、謙は益を受く」という教えがあります。これは「満足すれば思考が止まり、思考しなければ進歩が止まる。逆に謙虚な気持ちを忘れず多くの疑問を抱き、目標に向かって努力し続けられれば、結局は安定した利益が得られる」ということです。

 時間の洗礼を受けてなお伝えられる言葉には、多くの人の共感が積み重なっています。一方で、「多くの人の共感が積み重なってきた」ということは、「多くの人がこれを経験してきた」とも言えます。経験者である倒産企業。敬意をもってそのストーリーを学びの源に変換した本が、『世界「倒産」図鑑』だと感じています。人の失敗を単に叩くのは簡単。そうではなく、有難く学びとして活かします、という「愛」を感じる一冊です。

 事業家である父が、先日「上手く行っている時は、なぜか『このままの状態が続くんや』と思ってしまうんやな。でも絶対そんなことないねん。事業にはライフサイクルっていうものがある。それに気がついたのは、失敗した後や。」と、ボソっと呟いていました。売上増は七難隠す。まさにそのとおりなのですよね。
 この父の「ボソッと一言」の中に、多くの経験と含蓄が含まれているような気がして、再度この本を手に取った次第です。




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