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丁寧な暮らし2.0 〜ファミリーセール界の尾崎豊との邂逅と反省〜


先月都内某所で開催された
スポーツブランドの
ファミリーセールに行ってきました。

ファミリーセールというのは
会社関係者やお得意さんのみが
入場できる会場で
その会社の製品を超格安で
購入できるという
よく知られたあれです。


あまりファッションや服の購入に
興味のない私ですが、
たまには良いかと思い
伴侶に連れられて猛暑の中
のこのこ行ってまいりました。

滞在時間は1時間ほど。
伴侶は欲しいものが
沢山ある様なので
別行動で各々商品を漁りました。


たくさんのハンガーに
たくさんの衣類がかけられ、
ワゴンの中には
たくさんの服や靴が山盛りでした。

私は欲しい服も特になかったですが
せっかく来たのだからと
パジャマ代わりのスエットを
ひとセット買いました。

と、この様に買い物の成果は
あまりなかった私ですが
その他の成果はありました。


この日、私は
ファミリーセール界の尾崎豊を
発見してしまったのです。


ワゴンの中の服を漁る間、
私はその場の状況に若干の抵抗感が
ありました。
それは、
「みんな服をぐちゃぐちゃに探して
広げたり体に当てたりして、
好みでないものは丸めてぐちゃぐちゃの
ままワゴンに戻す」
ということについての抵抗感です。

しかしながら、
ファミリーセールは戦場。
各自がよりよい商品を手にするために
他者を押しのけ、突き飛ばし、
その結果、希望の品を入手するのです。
そんな中で自分に合わなかった服に
気を配る人などいる訳がありません。
また、気を配って服を畳みなおしたところで
それはすぐに別の誰かに蹂躙されてしまうのです。

「昔の自分なら耐えられなかっただろうな」
などと、雑に扱われる衣類を横目に
自分のための服を探しつつ、
思春期の頃の自分が今の自分を見たら
苦笑するかな、などと考えていました。


このような、あまり上向きの
気分とは言えない心理のまま
服を探し続けていた私の目に
一人の少年が飛び込んできました。


彼を見つけた私は
小さなライブハウスで自作の曲を歌う
デビュー前の尾崎豊を発見したような
気分になりました。


中学3年生、もしくは高校1年生ほどに見える
彼は、自分の服を探すことをせず、
淡々と誰かが散らばしたワゴンの中の
服を畳んでいたのでした。

スタッフかアルバイトかとも思ったのですが
他のスタッフのように首からパスをかけては
いませんでした。
そして、しばらく見ていると
母親が近づいてきて彼に
「これなんかどう?」
「これ、似合うんじゃない?」
と彼の体に服を当てて、購入を促していました。
しかし、彼は一切興味のない感じで
母親の提案を受け流し、
母親が諦めてどこかへ行くと
再び、周囲の大人たちが散らばした服を
畳むのでした。


彼は時々ぶつぶつと何か一人で
つぶやきつつ、
衣服を畳み続けていました。

その淡々とした手つきはリズムを刻み
その場に小さなうねりを生み出しているように
私には思えました。

そして、ある瞬間
歌を歌っているわけでもない彼の方から
メッセージが響いてくるのを
私の心は聴きました。

大人たちはなぜ!服を畳まないのか!
大人たちはなぜ!売れ残るほど服を生み出し!
それを叩き売るのか!
なぜ!人は人を押しのけ!
自分の服を探すのか!
先生あなたはファミリーセールで
服を畳むのか?!
先生おれは間違っているのか?!


気がつくと私は泣いていました。

尾崎、世の中は何にも変わっていないよ。
あんなにメッセージを残してくれたのに。
尾崎、俺もあの頃はあんたに共感したものだが
服も畳めない汚れた大人になっちまったよ。

そんなことを思いました。

服を畳み続ける彼の横顔を見つめながら
思春期の自分と、近年の自分に思いを馳せました。
そして、偽善的な自分を嘲笑いながら
1着だけシャツを畳んでワゴン中に置き、
その場を後にしたのです。


大量消費社会へのアンチテーゼ!
ファストファッションへの反抗!
安いという理由で衣服を漁る
大人たちへの批判!

それを小さな行動で高らかに
歌い上げていた彼は!
きっといつの日か
ファミリーセール界の尾崎豊に
なる傑物だと思います。


興味がなくても
ファミリーセールなどに
行ってみるのもいいものだなぁ、
とそんなことを思った2023年夏、
丁寧な少年を見つけた1日でした。



(了)

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