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『成功したオタク』は聖母たちのララバイ

 もし、推しが性犯罪で逮捕されたら?
 映画『成功したオタク』の監督オ・セヨンは、推しに認知された<成功したオタク>だった。だが、その推しが性犯罪で逮捕されてしまう。突如として<性犯罪者のファン>になってしまったセヨン。その後次々と韓国の人気アーティストが性犯罪で逮捕された。オタクたちに渦巻く苦悩や怒り。セヨンは彼女たちに腹の内を語ってもらうためにインタビューする。葛藤しまくったオタクたちそれぞれが出した結論とは。

4/15イメージフォーラム渋谷にて鑑賞。観終わったあと

オタクたち~!!

 
と映画に登場したオタクたちを片っ端から抱きしめたくなった。

 映画の中で、オタクたちは怒り、苦悩、時には笑いまじりで心境を語る。シラフでは語れないと昼間から酒を用意し始める(このシーンがとても面白い)。燃え尽き、もしくは燻っている<推し活>という火。アーティスト達が起訴された件は性犯罪で、その根底にあるのは女性嫌悪だから苦悩し続けるのも当然だ。1人のファンが言っていた『一生、刑務所入っとけ』は辛辣すぎて笑ってしまった。また、別のファンが言っていた『韓国は資本主義社会だから遵法精神を持っておいた方がいいですよ』(おそらくこのような内容)という言葉。果たして日本のファンだったら、こういう言葉が出てくるだろうかと疑問を持ってしまった。

 文春オンラインの記事で、相澤冬樹記者が性犯罪についての日韓の扱いの差について書いている。

 相澤記者は《この映画は男が観るべき》と記していた。女性である私からしたら《日本の女は全員観ろ》である。日本の女性も男性の性加害に甘いよ。性加害に限らず、職場で強者の立場にいる女性こそ《男性(特に年長者)を無条件に許す》のが体感としてあるんだけど、これ私だけかな?

 話が逸れました。

 この作品の後半で目を見張る点がある。オ・セヨン監督の《かつての推し》について、最初の告発記事を書いた記者にセヨンが会いに行っている場面がある。告発記事が出た当初はデマ扱いされ、監督もこの記事を信用せず、この記者のことを苦々しく思っていた。それについて、わざわざ謝りに行き、記者側の話も聞いていく。そして灯台下暗し。監督自身の母親も、とある俳優のファンで、その俳優が性犯罪を犯していた。世代の違いさえも超える推し活。また、母親が語る娘への思いに目頭が熱くなる。

 同世代のオタクだけに話を聞くだけでなく、違った視点からの言葉を積極的に求めているのだ。

 そして最も圧倒されたのは映画に登場したオタクたちの思慮深さよ。

 自分たちが持ち上げたから犯罪者になってしまったのか、グループでの人気が低いからこうなってしまったのか。かつての推しのことについてめちゃくちゃ考えている。彼女たちは女性として怒り、また同じオタクたちのことも考える。他者へ慮る姿勢がハンパないのだ。これ、もう

 推すべきは彼女たちなのではないか。

 そう思ってしまった。ここまで他者のことが考えられる人を好きにならずにいられないよ。

 巨大なビジネスになっている昨今の推し活について、疑問を抱いているオタク達も少なくない。私自身、あらゆる活動を追っていくような推し活は向いていないと考えている(現に某俳優のFCを1年で抜けたし。その俳優のことは今でも大好きです)。映画の中で、オタクたちが語る推し活への苦悩を観ていると、推しから距離を置いた推し方も間違ってはいないよな、と雨雲が晴れたような気持ちになった。


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