穂波了

底辺小説家。出版業界ですみっこ暮らし中。8月2日に角川書店から新刊『月面にアームストロ…

穂波了

底辺小説家。出版業界ですみっこ暮らし中。8月2日に角川書店から新刊『月面にアームストロングの足跡は存在しない』が発売されます!noteでは『探偵・武蔵(仮』を上げていこうと思います。

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自己紹介

『穂波了(ほなみりょう)』という生粋の千葉人です。 自己紹介というのは昔から苦手なので、とりあえず今までの作品の所感みたいなものをここに書いておこうと思います。 ・2024・8・2 角川書店刊  『月面にアームストロングの足跡は存在しない』  シンプルに、やりたいことをすべて詰め込んだ一作です。10年位前に「アームストロングの月面着陸はでっちあげ」という噂が世界中で流れたことがあって、それに絡めた宇宙飛行士の話をいつか書きたいと思っていました。気分が乗って、メイン部分は2か

    • 『探偵・武蔵(仮』第10話

       正月の二日。  朝一番に湯屋へ行き、据え風呂で垢を落とした武蔵は葵屋に戻る。  部屋には絹織の小袖・黒い羽織の礼服と、漆塗りに紋付きのたいそうな陣笠がある。京の所司代に仕える役人の正装らしい。葵屋がそろえたとか。 「この葵屋は、入り用の物を訳も聞かずに何なりと支度します」 「何なりと?」 「はい、ただ問題も。忍びの変化は七方出と申しまして、町人や商人、深編笠の虚無僧などに化けるのが常であります。が、それ以外の変化となれば少し値は張ります。特に、所司代に仕えるお役人ともなると

      • 『探偵・武蔵(仮』第9話

         むめいは顎に手を当て、されど、とつぶやくように言う。 「いかにして狼藉者を探すかですね。武蔵様は吉岡門下衆に追われる身でございます」 「編み笠で顔を隠せば、俺とわからないだろう」 「今は夜なので編み笠で顔を隠せますが、昼はそうはいきません。六尺近い武蔵様が編み笠をかぶったところで、すぐに気づかれてしまいましょう」  そうか、とうなずいてから、武蔵は思いを口にする。 「まいったな。俺はいまだに蓮華王院にも入ってなけりゃ、伝七郎の骸も見てねぇ。〝俺が殺した〟ってのによ。吉岡門下

        • 『探偵・武蔵(仮』第8話

          「吉岡道場の伝七郎様だ!」 「果たし合いに勝った宮本武蔵が首をさらした!」  当の武蔵がいるとも知らずに、集まる町人らが口々に騒ぎ立てている。  正体を見破られる前に武蔵はその場を離れ、むめいの元へ戻った。 「どうされたんですか、武蔵様」 「伝七郎の首がさらされていた」  と答えた後、武蔵は問答無用でむめいの手を引いて八条に引き返した。  両目に布を巻いた女人にもう一晩の金を払って、〝水〟の号がある部屋に入る。戸を閉め、筒に入った水をごきゅごきゅと飲み干した武蔵は、息を吐い

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        自己紹介

          念願の物件に引っ越しました!

          以前から、飲み屋街に住みたい、という思いがあり、SUUМОに張り付いて物件探しをしていました。それが半ば趣味のようになっていたのですが、ようやくよさそうな賃貸マンションを見つけました。 駅から徒歩2分、と聞けば、早い者勝ちの良物件、と思う方もいるかもしれません。 ですがこの物件、おそらく残り続ける物件です。 まず、怖めのお兄さんが出入りする雑居ビルとラブホテルに挟まれた、なかなかに緊張感の高い立地です。 夜になると客引きと酔っ払いが路地に大量にあふれます。 ベランダに出る

          念願の物件に引っ越しました!

          『探偵・武蔵(仮』第7話

           華やぐ京はとっぷりと暮れている。  亥の刻。元旦の町に溢れていた色とりどりの参拝人は日没とともに消え、手燭を持った役人や仏者、酔っぱらいが往来を歩くようになる。  編み笠を被った武蔵とむめいは、こそりと葵屋から出た。  野山ほどではないが、夜は都も暗い。町中をうろつく吉岡門下衆は減っている。宮本武蔵探しを諦めたか。蓮華王院にさえ近づかなければ、六尺近い武蔵が往来をおおっぴらに歩いても見咎められることはなさそうだ。  八条から鴨川に沿って北へ歩き、向かうは比叡山だ。  何で

          『探偵・武蔵(仮』第7話

          カドブンでインタビュー記事を書かせていただいたので、追記しますパート➂

          第32回神保町ブックフェスティバルに早川書房さんが出品する僕の著書にサインをしました。僕自身は行ったことがないのですが、今年は10月26日、27日に開催されるようです! さて、3作目は『X雨』。著者は沙藤一樹氏。 あらすじはあえて書きません。そして……おすすめ小説として挙げましたが、おすすめもしません。 ある種のジュブナイル小説なのですが、かなり異質です。 沙藤氏は『D-ブリッジ・テープ』という作品で、日本ホラー小説大賞の短編賞を受賞されています。 この受賞作、初読した

          カドブンでインタビュー記事を書かせていただいたので、追記しますパート➂

          カドブンでインタビュー記事を書かせていただいたので、追記しますパート➁

          カドブンででおすすめさせていただいた三作のうちの一作。今回は「酔歩する男」について追記します。 著者は小林泰三氏。2020年にご逝去されました。 『玩具修理者』という日本ホラー大賞受賞作品に付属している中編で、SF色を多分に含んでいるホラー小説です。というか、がっつりSF小説です。 以下で軽めに序文の紹介をします。  仲間内で酒を飲んだある夜。外はいつの間にか雨が降っている。仲間たちが帰宅した後、主人公は店内でタクシーの到着を待っていた。  そこに見知らぬ男が話しかけてく

          カドブンでインタビュー記事を書かせていただいたので、追記しますパート➁

          カドブンでインタビュー記事を書かせていただいたので、追記します

          まず前回記事でコロナかも、と書きましたが、扁桃腺炎でした。よかったです。ただ、薬を飲んで熱は下がったのですが、咳が止まりません。声も全くでません。完治するにはまだかかりそうです。 そして本題。カドブンのインタビュー記事でおすすめさせていただいた3作品の小説について、です。ミステリ3作、という要望だったのですが、ガン無視で自分の好きな小説3作を選びました。 どれも古い小説で、今は知っている人も少ないかと思いますので、追記という形で感想でも書いてみようかと思いました。 まずは

          カドブンでインタビュー記事を書かせていただいたので、追記します

          コロナになったかもしれません

          まだわかりません。ただの夏風邪だといいのですが。 現在は熱が38℃。咳、喉痛、関節痛がある状態です。 今はマスクをしていない人も多いですが、コロナが流行っているようです。ウィルスは鼻の粘膜で増殖することが多いので、うがい手洗いと鼻腔洗いをするといいです。僕はイソジンを鼻に塗ったりしていました。 それでもコロナになるんですかね。 コロナにしろ夏風邪にしろ、皆さまもお気を付けください。 体が痛いので寝ます。

          コロナになったかもしれません

          必須の七つ道具

          以前の投稿記事が50回も見ていただけたそうです。ありがとうございます!まだnoteの使い方もよくわかっていない初心者ですが、よろしければご愛顧ください。 というわけで今回は、よく視聴している『川島・山内のマンガ沼』で各漫画家さんの七つ道具を紹介していたので、マネをして自分なりの必須道具を挙げてみます。 まず①パソコンと➁コーヒー。コーヒーは特にこだわりがあるわけではなく、いろいろ入れるのが面倒なのでブラックしか飲みません。 前はコーラを飲んでいたけれど、ひどい虫歯になり、

          必須の七つ道具

          『探偵・武蔵(仮』第6話

           八条口の大通りから細道へ入り、更に奥の細道へと潜っていき、辿り着いたのは二階建ての家。札ものぼりもないので、ただの民家に見える。 「葵屋と申します」  戸を開くと、ちりんと風鈴が鳴り、若い女人が出てきた。  みすぼらしい小袖姿の女人は、両目に布を巻いている。盲目か、あるいは余計な物は見ないという表れか。  女人と話したむめいは階段を上り、〝水〟の号がある部屋に入る。  百二十八文。河原町の木賃宿より高いが、部屋はそこより狭い。四方二間に満たない部屋で、窓だけがやけに大きい。

          『探偵・武蔵(仮』第6話

          サイン本を作ってきました。

          先日、サイン本を作りに行ってきました。 場所は、以前からお世話になっているときわ書房さん。JR船橋駅を出てすぐのところにある、本好きには有名な書店です。 僕は字が下手なので、サインは筆ペンを使ってごまかしています。画像の状態が限界です! ちなみに前作『忍鳥摩季の紳士的な推理』はこのときわ書房の店長さんから特殊設定ミステリというジャンルのことをお聞きして、それは面白そうだと思って書きました。そして特殊設定ミステリの流行りはもう終わった、ということを今回お聞きしました……

          サイン本を作ってきました。

          『探偵・武蔵(仮』第5話

           町人が皆、果たし合いは宮本武蔵の勝利などと噂をしている。 「おいおい、待て待て……」  武蔵は紛れもなくたった今ここに来た。  なのに、勝負はすでに決したと言うのか。宮本武蔵という者は二人いるのか。何が起こった? 確かめなければならない。  蓮華王院に向かおうとしたところ、すすと寄ってくる女人がある。 「もし」  参拝人が何の用だ──  と思ったが、その女人は町娘の姿に変化したむめいだった。いつもは下ろしている前髪を上げ、後ろも縛っているから、わからなかった。 「武蔵様、進

          『探偵・武蔵(仮』第5話

          祝!新刊発売!

          ・タイトル 『月面にアームストロングの足跡は存在しない』 ・あらすじ 新世代の月開発プロジェクト「アルテミス5」。そのクルーとして月軌道プラットフォーム‐ゲートウェイ(LОP‐G)に滞在する6人は、NASAから不可解な指令を受ける。曰く「1969年のアポロ11号は月面に着陸していない。この事実を隠ぺいするため、ニール・アームストロングの足跡を捏造してほしい」というのだ。船長のロバートとベテラン宇宙飛行士のジョンは、指令に「従うべき」という立場をとるが、副船長のサイラスと

          祝!新刊発売!

          『探偵・武蔵(仮』第4話

           慶長十一年の夜が白々と明けた、元日の早朝、寅の下刻。  百と八つの鐘の音はもう聞こえないが、風に揺れる柳の枝やあちこちで上る飯炊きの煙、朝を告げる鶏の声まで、新年の喜びに包まれている。  宿を出た武蔵は、町人でにぎわう河原町を歩く。腕組みし、手は小袖の中に入れる。刀を持つ手が、いざというときに冷たくならないように。  むめいは暗い内から宿を出て蓮華王院に行っている。仕掛けられた罠やら隠れた射手がいないかを調べる〝かまり〟とかいう忍びの業らしい。  ただ戻らなった。  武蔵が

          『探偵・武蔵(仮』第4話