見出し画像

ずるい男


月が綺麗だからと夜の散歩に誘われた時はなんてキザな男だと笑ってしまったけれど、待ち合わせの時間が近づくたびに変に高揚している自分がいた。


「お風呂入っちゃったから化粧落としちゃったよ、、、」
なんて逃げ道みたいなことを前置きにしたくせに、少しでも魅力的に移って欲しくて薄く顔に手入れをする。
眉毛は不自然にならないくらいに整えて、まつげがクルンとしている子が好きなんて言ってたのを思い出してビューラーを押し当てる。リップクリームに加えて、ナチュラルメイクの常套句のピンク色を入れて。
夜でもすっぴんでも可愛いなって思われたいなんて浅はかな期待。
お風呂後なのでキツすぎないように、石鹸の匂いがするボディークリームを多めに体に伸ばしたら、仕上げにはボディークリームと同じ種類のヘアミストをさっと吹きかける。
風が吹いたときにでも私からのいい匂いに気づいて抱きしめて欲しい。なんて。

そんなこんなで待ち合わせの10分前には準備万端。
この10分が一番緊張する。何話そうかなとかどんな感じで挨拶しようかなとか色々イメトレしちゃう、どんなに想定してても実際あった瞬間には全然上手にできないのに。

早く来ないかなぁ、、、あ、口紅変じゃないよねなんて鏡をもう一度見ようとしたときにぬっと黒い影。


「お待たせ。」


あぁ確認できなかったぁぁぁぁぁ、もっと早く見ておけばぁぁぁぁぁ
なんて思いながらも夜に二人で会えたことが嬉しくて思わず顔が緩む。
ほらさっきのイメトレでは「待ってないよ!」って王道に言ったり、「楽しみすぎて早く来ちゃった」って可愛く攻めようとか、「遅い〜アイス買ってよね」って甘えたりしようと思ってたのに!

「こんばんは」なんて素っ気なく挨拶しちゃった、、、だってにやけてる顔なんて見られたら恥ずかしすぎる。

彼はそんな私に気づいてか、クスクス笑いながら「こんばんは」って返して来た。
「なんで笑うの」なんて話題から話は進む。
話してる最中にも風が吹くたびに良い匂いしてるかなって考えたり、さりげなく車道側を歩いてくれるとこやコンビニでドアを開けてくれたりするところにときめいたり。

二人で好きなお酒とおつまみを一つずつだけ買ってまた歩き出す。お会計の時に何気なく私が受け取っちゃった袋を、さっと「持つよ」って代わってくれただけでも胸キュンポイントだったのにそのときかすかに手が触れて、それがまた嬉し恥ずかしで。
うわぁぁぁぁぁぁ触っちゃったぁぁぁぁぁ、このまま手を繋いでくれぇぇぇぇぇとか内心では大盛り上がり。「あ、ありがと」なんて声にもニヤニヤが隠せなくて。思わずとっさに「月!本当綺麗!」苦しいにもほどがある逃げ技。でもそれが本当になるくらいその日は月が綺麗で、彼も「本当だ」って見上げてくれた。その姿を斜め後ろからじっと見つめながら、抱きしめたいなぁなんて素直に声に出そうなところをぐっとこらえる。抱きつく勇気なんて持って来てないよ。

月を眺める彼を抜かしていくように、月を見ながら歩き出す。
「綺麗だねぇ」「ウサギとかに見えるのかな?」なんて思ってもないような事を言いながらでも歩き出さないと、触れないこの距離が苦しくてたまらなかった。でも彼の少し前まで歩いてもう一度立ち止まる。月が綺麗だったからなんて建前で、彼にも私の後ろ姿を見て愛しいと感じて欲しかった、それが本音。そんなことないとはわかっていながらも、どうしようもなく期待してしまうのが片思いってやつだ。


「ね!」って振り返ろうとしたとき、ふわっと抱きしめられた。

びっくりして言葉も出なかった。硬直した私に彼はそっとキスをした。
あぁ、この人はいつもキスがうまい。一瞬で全部忘れてしまうようなとろけるキスをする。


あなたがあの可愛い子と新宿でデートしてたこと知ってる。
飲み会で酔った可愛い子をお持ち帰りしてることで有名なのも知ってる。
次の約束をしてくれないことも分かってる。
私があなたのこと好きで好きで離れられないのを分かって急に連絡してくるのも分かってる。

それ全部わかってて
私はあなたからの誘いにとびっきり喜んで、
あなたのためだけに入念な準備をして、
あなたからの安易な欲望が混じった愛情に期待して、
弄ばれててもそれでも良いと思ってしまう。


優しくて
ずるくて
キスが上手い

あなたはなんて悪い男。でも好き。
見てろよ、いつか私の虜にしてやる!!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


妄想爆誕!
大学生あるあるのプレイボーイへの儚い恋!
でもそれだけじゃなんとなく嫌なので、女の子特有の強さも最後のワンフレーズに入れさせていただきました。

お酒でも飲んで、めったに行かないバーとやらで飲みすぎてキザで遊んでそうな男に口説かれた後日にでも読んでもらえたら幸いです。

あーーーーーーーーーーーーー有名になってみたい!!!!!!

今日はここまで☺︎

Honami



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?