液体窒素をなにがなんでも補充しないといけない生物学者の事情について
生物学にとって、液体窒素はとても重要だ。
切っても切れない関係にある。
近頃、ほとんどの大学で入構規制を敷いているでしょう?
でも、そのルールを読むと、警戒レベルが高くても例外的に大学に入れるケースとして、
動物のエサやり
液体窒素の補充
のふたつが、よく書いてある。
一般の人には「動物のエサやりは分かるけど、液体窒素の補充って・・・?」と思われてしまうだろう。
でも、液体窒素は何が何でも補充し続けなくてはいけない、切実な事情があるのだ。
* * *
生物学にとって、冷凍庫はとても重要だ。
特に、タンパク質や細胞を保存しておく時にはとても重要だ。
タンパク質や細胞を冷凍庫で保存するのは、家庭で肉や魚を冷凍庫で保存するのとは、意味が全く違う。
家庭で食べ物を冷凍庫に入れるのは、「腐らないようにするため」だろう。冷たくすることでバクテリアとかカビとかの活動を(完全には止められないけど)なるべくゆっくりにして、食べ物が腐るのを遅らせているのだ。
一方、生物学の研究をする人たちも、研究したいタンパク質や細胞を冷凍庫で保存するけど、これは腐らないようにするためじゃない。「腐らないようにする」レベルの冷凍では、全然ダメだ。
なぜなら、タンパク質や細胞の研究をしたいんだから、解凍した時にタンパク質の働きも細胞の働きも元どおりになる、つまり「生き返る」必要があるのだ。
こういう、「生き返る」レベルの冷凍は、とても難しい。
とても低い温度で冷凍しないといけない。
それで研究用にはディープフリーザーっていう、マイナス80℃とかマイナス90℃とかまで冷やせる特殊な冷凍庫が使われる。
そして、さらに大切に保存したいなら、液体窒素フリーザーの出番だ。
これは要するに液体窒素を入れておく保冷容器で、タンパク質や細胞を液体窒素の中にジャブっと浸けて保存しちゃおう、っていう。
ある意味、単純は発想だ。
液体窒素の温度はマイナス196℃。
ここまで冷やせば、原子の運動もほとんどなくなるし、デリケートなタンパク質や細胞も長期間保存できるだろう、って寸法だ。
そして解凍すると、タンパク質も細胞も、ちゃんと生き返る。
(解凍のし方にも注意が必要だけど。)
こういうわけで、生物学と液体窒素は、切っても切れない関係にあるのだ。
* * *
生物学系の多くのラボでは、大切なタンパク質や細胞が、液体窒素フリーザーの中で眠っている。
でも、液体窒素は蒸発していく。
だから、どのラボでも学生には「液体窒素当番」なるものが割り当てられていて、液体窒素フリーザーに定期的に液体窒素を補充する。中の温度が絶対に上がらないように必死で維持しているのだ。
長年努力してようやく手にしたタンパク質や細胞が失われたら、年単位で研究が停滞しかねない。
場合によっては、二度と手に入らない細胞だってある。
大学の入構規制の例外に、
液体窒素の補充
とさりげなく書かれている裏には、こんな切実な事情があるのだ。
(※ 物理や化学の分野でも液体窒素は使われていて、それぞれ事情があると思うけど、僕はよく知らない。生物学の事情だけを書いています。)
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