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教授と細胞分裂とラボの選び方

僕らのラボのボス(教授)は、厳しいことで有名だった。

正確には、テストやレポートの採点が厳しい教授だったので、僕らのボスの講義は学生には人気がなかった。

でも僕は生物学が好きだったので、まだ学部生だった時に、この教授の講義を受けてみた。

するとある日の講義で、教授は学生たちに細胞分裂の動画を見せてくれた。
細胞の核の中で染色体ができ、核膜が消えて染色体が赤道面に並び、その染色体が両極にグッと引き寄せられて、細胞がひょうたん型にくびれて、くびれた所が切れて、ふたつの細胞になる。
中学生の頃から繰り返し見てきたこういう細胞分裂の様子を見るのが僕は大好きで、この時もうっとりと見とれていた。

ところが、気が付くと教授も、学生に背を向けてこの動画をジーっと見つめているのだ。
そして動画が終わると、我に返ったように学生の方を振り返り、珍しくにっこり笑顔になって、
「僕はこれ、何回見ても感激しちゃうんだけどね。」
と言ったのだ。

ああ、この先生は本当に、生物学が大好きなんだな、とこの時思った。

このことがきっかけで僕はこの教授に興味を持った。

そして、この教授のラボを訪ね、教授と話し合い、大学院で所属するラボをここに決めたのだ。

後になって、所属するラボをそんな安易に決めたとは、と別の先生に叱られたのだが、僕は全然後悔していない。

この教授は、生物学の研究を心から楽しんでいる。

それだけ分かれば十分だった。

なんかこう、進みたい道とかって結局、縁とか出会いで決まるよね。
そこに科学とか理論が介在する余地は、ほとんどない。


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