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細胞は、人体と分子を同じ土俵にのせるプラットフォームになり得る

細胞を測定することは、
 人体レベルの世界と
 分子レベルの世界を
同じ土俵にのせる「プラットフォーム」になり得る。

前々回の投稿で、

人体を「分子」という部品にバラして調べる、という手法には限界があると書いたけど、分子レベルの研究を否定したいわけじゃない。

生命を分子のレベルにまでバラして、分子の働きを調べること、つまり分子生物学的なアプローチが人類にもたらした恩恵は非常に大きいし、これからも重要であり続けるだろう。

でも、分子を調べるというアプローチは、ある意味では限界に近づいている。

これを打破するには、分子生物学をサポートするような、新しい切り口が必要だろう。

それがどんな切り口なのかは、まだ分からない。

でも、ヒントは「細胞」にあるはずだ。

ふたつの世界はつながっていない

ふたつの世界を思い浮かべてほしい。

 「人体」というレベルの世界と、
 「分子」というレベルの世界だ。

人体レベルの世界っていうのは、ふだん僕たちが見聞きし、感じてる世界。

 今日は、なんか体調いいなぁ〜、とか、
 あれ、この子なんか元気ないな、とか、
そういう世界。

分子レベルの世界っていうのは、生物学者が分子をひとつずつ研究して、解明していく世界。

 ある分子の働きを詳しく調べて、
 その分子が働きかける相手の分子を探して、
 ネットワークの地図を描いていく、
っていう世界。

ふたつの世界がつながっていないことを感じ取るのは、そんなに難しくない。

ある病気の「原因となっている分子を発見した」という論文はよくある。時々、ニュースにもなる。
ある分子の量を、健康な人と病気の人で比べたら、病気の人の体内でその分子が増えていた(もしくは減っていた)という内容が多い。
でも、そのデータを見てみると、大抵はこんな感じだ。

010_健康と病気グラフ

ひとつの点が、ひとりの人の値を表しているんだけど・・・
データの分布が、健康な人と病気の患者さんとで、かなり重なってる。

つまり、
健康な人に比べて、この分子の量が増えてる患者さんが確かに多いんだけど・・・
健康な人と大して変わらない患者さんも、けっこういる。

だから、例えばこの分子の量を
 「病気になってるかどうか」の判断基準
にしようと思うと、かなり頼りない。

こういう論文がダメだと言いたいわけじゃない。
この分子が、病気に何らかの関与をしている可能性が示された、というのは重要な情報だ。

でも、こういう結果になる研究が多いという現実を見ると、
「人体の世界と分子の世界は、つながってない」
と強く感じる。

この問題は、別の面から見ることもできる。

以前も書いたけど、
例えば、患者さんの体で、
ネットワークのここの分子が活発になりすぎていて、

013_活発過ぎる経路

これ以降の情報の流れが強くなりすぎている、
と分かったりする。

これを見ると、
 この分子の働きをおだやかにすれば、
 病気が治るだろう。
と「予測」できそうな気がする。

そこでこの分子の働きを抑える薬を作って、患者さんに投与してみる。

すると、確かに病気がよくなる患者さんもいるけど、
薬の効果が出ない患者さんもいたり、
薬の副作用が強く出すぎて、薬が使えない患者さんがいたりする。

つまり、
 分子のネットワークを見て予測したことが、
 あまり正確ではなかったりする。

分子では、人体をあまり正確に予測できない。

それでぼくは、
「人体の世界と分子の世界は、つながってない」
と思うんだ。

ふたつの世界がつながらない理由

分子のネットワークを見ても、人体の振舞いをあまり正確に予測できない理由は、ひとつはこうだろう。

ネットワーク上の、ある道すじが活発になりすぎていて、
それを抑える薬を作ったとする。

011_バイパス

でも、その道すじを迂回するような、
まだ知られていない、もうひとつの道すじが実はあったら・・・

薬は、このふたつの道すじの片方しか抑えてないわけだから、
薬の効果はあまり期待できないだろう。

そして、こういう「予備の道すじ」は、実はたくさんあるはずだ。
だって、たったひとつの道すじを抑えられたら、すぐに働かなくなってしまうような仕組みばかりだったら、危なくてしょうがない。

重要なシステムには必ずバックアップがあるはずだ。
それは、人が作るものでも、細胞でも同じだ。

そして、人体の中のネットワークの、バックアップも含めた全体像は、きっと気が遠くなるほど複雑だ。これを完全に解明できる日が来るとは想像しにくい。だから、分子のネットワークを見て人体の振舞いを予測しようとしても、その予測の精度はある程度以上はよくならないだろう、と思う。

あと、
 「ふたつの世界がつながらない理由」
は、もうひとつ考えられる。

人体は、
 物質やエネルギーが常に出入りしていて、
 状態が目まぐるしく移り変わる、
 とても「ダイナミック」なシステムだ。

ところが、分子を測るには、
(測るのが遺伝子であっても、タンパク質であっても・・・)
多くの場合、細胞をすりつぶして、中身を取り出す必要がある。

つまり、細胞を殺してしまって、
 ある瞬間の、ある分子の量
を測ってるんだ。

つまり、細胞の時を止めてしまっている。

だから、分子を測って得られた結果には、
生命のダイナミックさが、反映されにくいと思う。

身近な人たちを見てみれば、
 歩いたり、飛び跳ねたりしているし、
 元気な時もあれば、風邪をひいている時もある。
 風邪をひいても、やがて治っていくだろう。

こんなダイナミックな僕たちを、
 細胞をすりつぶして、分子を測った結果
から、正確に予測できるとは思えないんだ。

人体をまるっと写像できる夢の技術があったら

そこで、
 人体を「分子」という部品にバラす
という発想を、一旦やめてみる。

そして、
 人体を部品にバラさずに、
 ダイナミックさもそのままに、
 まるっと全体を写し取れる何か、
を探すことにする。

そんな「何か」が見つかったとしよう。

012_人体を写像する状態空間

人体の状態をまるっと写し取る、つまり「写像」できる、想像上の空間を考えてみるんだ。

この空間では、
 人体の状態を点で表すことができて
 その点の位置が、その人の状態を表しているので、
この空間を
 「状態空間」
とでも呼んでおく。

この状態空間には、人体の状態が、
 ダイナミックさもそのままに
 まるっと全体が
写像されてるので、人体の状態をとても高い精度で表現できる。

ちょっとでも体調が変化したら、点の位置がずれるし、
ちょっとでも病気がよくなったら、点の位置がずれる。

そして、
ある人の体調の変化をずーっと追っていくと、
その人の体調の軌跡が、状態空間の中に描かれる。

013_人の状態の軌跡

だから、この軌跡を説明する数学を作れたら、
それは、僕たちの体調の変化を予測する数学になるだろう。

ニュートン力学が、砲弾が飛んでいく軌跡を予測できるように。

さらに、この状態空間には、もうひとつポイントがある。

健康な状態と、病気の状態を、座標で表せたとする。

014_健康と病気

すると、
 患者さんの状態が
 どっちにどれだけ変化すれば
 健康な状態に戻るのか?
っていう「ベクトル」が描ける。

015_健康と病気ベクトル

さらに、患者さんに
 分子Aを抑える薬を投与した時の変化
 分子Bを抑える薬を投与した時の変化
も、ベクトルで描けたとすると・・・

013_合成ベクトル

「薬A と 薬B を組み合わせると、病気に効くだろう」
と予測できるかも知れないのだ。

もしこれができたら、とても大きな変革になる。
 人体の変化 と 分子の影響 を
同じ空間の中に描けているからだ。

ヒト と 分子 を同じ土俵に乗せる、
 プラットフォームになっているのだ。

ふたつの世界がつながる!

このプラットフォームは、
分子の世界から、人体の世界を予測するための、
強力な足がかりになるだろう。

なぜそれが「細胞」なのか?

さて、
妄想を書きたてたのはいいけど、
じゃあこの「プラットフォーム」の正体は?

それはまだ分からない。
でも、最有力候補は「細胞」だと思う。

理由は、
 1) 複雑さ
 2) ダイナミックさ
 3) 体内をパトロール
の3つだ。

1) の複雑さについては、前回も書いたように、

人体という、超複雑なシステムを写し取る相手は、
やはりある程度は複雑でないといけない。

 ある程度は、複雑なシステムで
 全体をまるっと把握できる程度には、小さいシステム
っていうと、細胞ぐらいしか思い浮かばない。

2) のダイナミックさについては、
 人体 も 細胞も
 物質とエネルギーが激しく出入りしている
とてもダイナミックなシステムだ。

それに、細胞は、
 それ自体がダイナミックに動く
という意味でも、とてもダイナミックだ。

僕の思い描く状態空間には、
人体のダイナミックさをそのまま写し取りたい。
だから、人体を描き出すキャンバスとして、
「ダイナミックな細胞」は最有力候補なんだ。

でも、人体も細胞も、共に複雑でダイナミックだとしても、人体の状態が細胞に「写し取られる」なんてことが、実際に起きているかどうかは、分からない。

分からないけど、
3) 体内をパトロールしている細胞には、人体の状態が写し取られている可能性があると思う。

体内を巡回している細胞というと、白血球だろう。
白血球は、血液の流れに乗って体中のいろんな所を巡回して、いろんな影響を受けて回る。
そんな白血球に体の外に出てきてもらって、尋ねれば、
きっと体内の様子をいろいろ教えてくれるだろう。

これは例えば、社内のいろんな部署と関わりがある顔の広い人に話を聞けば、会社の様子がよく分かる、というのに似ている。

そんな白血球を、
 生きたまま
 まるっと測定するのだ。

そうして得られるパラメータが10種類なら、
 状態空間は10次元
パラメータが100種類なら、
 状態空間は100次元になるだろう。

これが、僕が思い描く状態空間。
この空間には、人体の状態が点の位置として表される。
ちょっとでも体調が変化すれば、点の位置がずれるし、
分子に作用する薬の影響も、点の位置の変化として現れる。

人類が営々と築き上げてきた、分子についての膨大な知識と、僕たちの日常感覚をつなぐプラットフォームとなるだろう。

分子の世界と、人体の世界がつながるはずなのだ。

こんな妄想に価値はない

以上のストーリーには、根拠の弱い仮定がたくさんあるし、、完全なる僕の妄想だ。

こんな妄想は、ものごとを 1ミリたりとも前に進めない。

でもこれは、僕が長年抱えてきてしまっている妄想で、一度はぜんぶ吐き出さないと、僕自身が 1ミリも前に進めそうにないのだ。

とはいえ、吐き出したのはいいけど、細胞をどうやって測定すればいいのか、全く分からない。
ここから先は、実際に実験してみないと分からないだろう。

でも、僕がずっと考えてきたのは、生命科学の次のブレークスルーはどのあたりにありそうなのか?ということだ。
それはおそらく、「細胞」というレベルの世界のどこかにある。
狙うべきは、ここだ。
それは間違いない、という気がしている。

ここまで僕の妄想を読んでくださった方に、心から感謝します。
本当にありがとうございます。

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(最近知ったのですが、noteユーザー以外の方でも「スキ」を押せるみたいです。)

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