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細胞ってこんなに動くんだ?!と知って、生物学にハマった日

小学校の頃、僕は生物学っていうのは嫌いだった。

小学校の理科で習う生物学って、花には雄しべと雌しべと花弁があって・・・とか、昆虫には頭部と胸部と腹部があって胸部から足が6本はえてて・・・とか、そんな感じ。暗記が苦手な僕は、生物学はどうしても好きになれなかった。

中学生になって、最初に教わった生物の先生は、ちょっと変わった人だった。「いいか、おまえら」が口癖だった。

ある時、この先生は、

「いいか、おまえら。今開いてるノートの左側のページの一行目に書いたばっかりでもいいから、新しい、なんにも書いてないページひらけ。」

と言って僕らに、ノートのまっさらな見開き2ページを用意させた。

そして黒板の左端から右端まで歩きながら、横にまっすぐな線を一本引いた。

僕らも同じように、ノートの見開き2ページの左端から右端まで、横線をエンピツで引いた。

先生はまた言った。

「いいか、おまえら。この線の下が細胞の中で、この線の上が細胞の外だ。」

つまりこの線は細胞膜らしい。

そしてこんな話を始めた。

細胞の外から(この図では、上から)エサがやってくる。

すると細胞膜がこんなふうにへこんで、

細胞の中に包みこんでいって、

完全に飲み込んだら、エサを包む膜が、外側の細胞膜から、プチっと切り離される。

このエサを包んだ袋の中には消化酵素が送り込まれて、中のエサは消化されて、栄養分が細胞の中に取り込まれる。

おどろいたことに、この袋の中は「細胞の外」らしい。

そしてこの袋は、また細胞膜にピッとつながって、外にひらき、消化しきれなかった残りカスがペッと捨てられる。

今思えば、これは専門用語でいうと、エンドサイトーシス(ものを取り込む)とエクソサイトーシス(ものを排出する)のお話だ。

先生はこれを、専門用語をほとんど使わずに、中学一年生でもわかるように話してくれたのだ。

この話を聞いて、僕は、

「細胞ってこんなに動くんだ?!」

とびっくりしてしまった。

それまで僕がぼんやりと思い描いていた細胞のイメージって、もっと化学的なものだった。つまり細胞のなかでいろんな化学反応が起こってるんだろう、っていうイメージ。細胞はとても小さい袋だけど、化学反応なら小さいイレモノの中でも起こりそうな気がする。

でも、エンドサイトーシスやエキソサイトーシスは、それとはまったく違う。とても「機械的」なイメージだ。ものすごく小さなもののなかに、なんか機械的な仕組みが押しこまれてるらしい。いったいどんな仕組みなのかまったく想像もつかず、とても不思議で、ワクワクした。

一瞬で、生物学にハマってしまったのだ。

以来、中学でも高校でも、僕は家で生物の勉強をした、という記憶はほとんどない。生物の授業が楽しくて、一度聞けばほぼ全て記憶してしまい、復習する必要がなかったのだ。生物の試験の成績は、いつもトップクラスだった。

それからいろいろあって、大学院では、生きたままの細胞の動きを顕微鏡で見るっていうのをメインに据えた研究テーマに取り組んだ。没頭したと言っていい。

就職先の小さな会社も、生きた細胞の動きを見るためのちょっとユニークな技術をウリにした会社だった。

最初の衝撃から20年以上も、細胞の動きにハマりつづけることになってしまったのだった。




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