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治ったと思っていた花粉症だけど

わたしは重度の花粉症患者だった。

はじめに花粉症を発症したのは、小学校の低学年だと思う。気がついたら地元で有名な耳鼻科に頻繁に通っていたので、もしかしたらもっと早いのかもしれない。あるいは元々持っていた鼻炎から芋づる式に花粉症になったのかもしれないが、どちらにしてもわたしの青春は花粉症と共にあったと言っても過言ではない。

花粉が猛威を振るう春よりも遡り、前の年の秋には予防の薬を耳鼻科に貰いに行っていた。とにかく長く待たされる病院で、待合室で何冊マンガを読み終えたかわからない。

なかなか診察に呼ばれないので、当時マンガの中でも圧倒的に文字数が多かったDEATH N●TEをじっくり読んでいたのが懐かしい。

そしてなんと言っても診察をしてくれていた院長が苦手だった。鼻の中を除く分厚いメガネのようなスコープを掛けて、わたしの鼻の中を覗くと一言「さっちゃん、鼻ほじったでしょ。」

女子になんてこと聞くんだ。
既に思春期に突入しつつあった小学校高学年のわたしは首を勢いよく横に振った。

しかし無情にも「いや、ほじったでしょ。先生にはこのメガネで何でも分かっちゃうんだぞ〜。」と待合室にまで聞こえんばかりのでっかい声で言われる。なんの羞恥プレイなんだろうか。

それでも頑なに首を振り続けるわたしに「鼻の穴広がったらブスになるから止めるんだよ〜」とかなんとか言っていた。

このやり取りは中学に入るまで繰りかえされた。

中学生になると思春期も本番に突入し、元々苦手だったのも相まって喋らなくなったわたしは先生のからかいも鼻で笑うようになった。先生にもわたしと同い年くらいの息子と娘がいると言っていたから、なんだかほっとけないと思ってくれていたのかもしれない。

高校生になってからは先生はふざけるのをやめて「ちゃんと勉強してるのか〜?」とかそんな親戚のおじさんのような声掛けをしてくるだけだった。

結局、その耳鼻科には高校3年まで通い続け、短く見積もって最低12年は世話になっていた。しかも冬から春にかけては週一で通っていたから、まさに青春をともに駆け抜けてくれた病院といえる。


ところが大学生になると、途端に花粉症が治ってしまった。
完全に治ったと実感したのは大学3年のときだが、大学2年目のある日、突然「この痒み…思い込みなのでは」と思い始めたのだ。

思い返すにこれまでは毎年地元の耳鼻科で早くから対処してきていたのに、上京してからは一切薬も飲んでいなかったので一年目は相当花粉に苦しんでいた。あまりの辛さに、頭が変な方向へ向き始めたのだろう。

「この痒みが思い込みなら、痒くないと思い込めば治る」と信じ込み、鼻がむずっとしても、どれだけ目をかきむしりたくなっても気のせいだと言い聞かせていた。

そうすると驚くべきことに3年目には花粉症は治っていた。

もちろんわたしは有頂天になり、周りに花粉症が治ったことを豪語した。これみよがしに「花粉症は思い込みなんだよ〜」と言いまわって、重篤な花粉症患者から反感を買うのが一時マイブームになっていたくらいには調子に乗っていた。大人になってからは多少の社会性を身に着け、花粉症の話になったら「実は……治ったんですよね」とあくまで聞かれたから喋りだす風を装うようにはなったものの、鼻高になっていたことは恐らく隠しきれていなかっただろう。

しかし最近、なんだかふいに鼻がむずっとする……気がするのだ。
朝目覚めると、目が充血ぎみで痒い……気がするのだ。
そんなはずはないと言い聞かせているものの、ふいにやってくるくしゃみの前兆が恐ろしい。

地元の両親にあの耳鼻科は今も診療しているのか聞くと、院長はまだまだ現役だそうだ。
再会は近いかも知れない。
取りいそぎ、羞恥プレイへの対応策は考えておこうか。

編集:円(えん)

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