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ドラ娘は空き家の夢をみる

田舎から東京に出てきて12年目になろうとしている。その間引っ越しはたった1度。今の家は10年近く住んでいるので、もはや引っ越しの仕方を忘れてしまった。

もともと多摩地方に続く私鉄の奥の方の駅に住んでいたが、2年ほどして今の家に移り住んだ。ちょうど父が定年退職後の収入源として区分マンションのオーナー業に手を出し始めた時期で、そのうちの一室を学生の間だけという条件で借りていたのだ。しかし社会人になってからもなんやかんやと父の部屋を出そこねていたわたしは、そのときの収入に合わせて父にお金を渡したり、渡さなかったりした。今考えてもいや考えなくても、疑いようのないドラ娘である。その後父のオーナー業がどうなったのかは知らないが、たまに話す雰囲気では恐らく私が住んでいる部屋以外は手放したのだろうと思う。

部屋は郊外のワンルームなので、区分マンションのオーナーといっても大した収入にはならないが、貸したほうが収入がプラスになるのは間違いない。オーナーの1ヶ月の支出は、固定資産税などの税金にマンションの管理組合の会費などで、大体1ヶ月の家賃相場の半分くらいだ。
 
父は一貫きて払えるときに払ってくれたらいいと言い続けてくれていたが、さすがに良い大人が親の金で暮しているというのも大概にせえよともう一人のまともな自分がプレッシャーをかけてくる。

罪悪感に負けたわたしはついに、父にマンションの固定費を気まぐれではなく必ず毎月払うこと、自力で家を見つけること、引っ越した後に空いた部屋は借り手を見つけるまたは売却する算段をつけることを申し出た。

父は一言、そうかと言っていた。

そんなこんなで絶賛家探し中なわたしは今出張で仙台にいる。
殆ど家にいないのが実情な今の生活は、もはや定住することにさしたる意味はないのかもしれない。

田舎で安い空き家でも買って、のんびり暮らしてもいいかもしれない。長閑な地方の雰囲気に流され癒やされたわたしは呑気にそんなことを思った。そこに両親を呼んでこれまでの親不孝を詫びるのも悪くないと、ドラ娘は思うのだ。

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