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絵本「わたしのとくべつないぬ」〜わかさんから子供たちへのものがたり〜

「身近な人に伝えたい想いがあっても、距離が近いからこそ伝えるのが気恥ずかしい」「相手が子供で、伝える手段が限られている」そんなことは、ありませんか。

ライターやイラストレーターが集まるチーム「身近な人へのものがたり」は、インタビューで汲み取った想いをベースに、相手に想いが伝わる本を制作・販売*します。本の制作依頼だけでなく、シナリオライターやイラストレーターとしてチームに参加することも可能です。

今回紹介するのは、絵本「わたしのとくべつないぬ」。わかさんが小学4年生のときに出会い、7年間一緒に過ごした愛犬むぅちとのお別れを描いた本作を通して、わかさんが子供たちへ伝えたい想いとは——。(2023年12月取材)

*モニター募集は終了しています
**本編はページの最後から観ることができます

原作者/作画担当 わか さん
九州在住。2児の母。銀行員や大学事務員を経て、保育士に転身。さらに、Webデザインもできる複業ライターに挑戦中。

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りんごをむくたび思い出す、愛犬むぅち

——物語は、わかさんとむぅちの出会いから始まりますよね。どういった出会いだったか、詳しく教えてください!

最初に会ったとき、むぅちは犬をたくさん飼っているお宅にいました。そのうち里親募集中だったのはオスとメスのゴールデンレトリバーで、オスのほうは近づくと大興奮で迎えてくれる、すごく人懐っこくてかわいい子だった記憶があります。そして、そんなオスゴールデンの後ろでソワソワウロウロしていたのが、むぅちでした。

——むぅちを選んだのはなぜだったのでしょう。

親が「一緒に暮らすならメス」と決めていたみたいなんです。私が誕生日に犬をほしがりお迎えすることになったので、お世話は全部私がする予定でした。だから、力が強いオスよりは少しでも扱いやすいメスを、という配慮があったのかもしれません。

——お迎えしてからは、わかさんがお世話を?

部活が忙しくなるまでは、散歩もごはんの準備もそうじも、全部私がやっていました。幼心に「むぅちのお世話は大事な仕事だ」という感覚があった気がします。

——むぅちの様子で、特に印象に残っていることはありますか?

むぅちは野菜や果物が大好きで、人間が食べるときにはいつも分け前をあげていました。準備して持っていって、あげる前に「おすわり」って言うと、座ろうと頑張るんですけど、うれしくてソワソワしすぎて腰が浮いちゃう。しっぽもぶんぶん振っているから、完全に中腰で喜んでいましたね(笑)。

特に心に残っているのは、我が家に一年中あったりんごとむぅちのエピソードです。むぅちにあげるのは皮の部分でしたが、「今日はちょっと厚めにむいて、美味しい部分を増やしてあげよう」なんて思っていたんです。お別れして20年近く経ちますが、今でもりんごをむくときはむぅちのことを思い出してしまいます。

むぅちが「とくべつ」な理由

——わかさんのご実家では、むぅち以外の犬をお迎えしたことがあるんでしょうか?

幼稚園のころに小型のミックス犬、大学生のときには中型のミックス犬と暮らしていました。

——むぅちの前にも後にも犬がいたんですね。そのなかで、わかさんが今でもすぐに思い出すくらい、むぅちを特別に思う理由は何ですか?

むぅちが本当に優しい犬だったからです。もちろん、多感な時期を一緒に過ごしたことや愛情をかけた時間が長かったことも、特別である理由なんですが。

初めてのお散歩のときから絶対にリードを引っ張らなかったし、一緒に歩いている母がしんどそうにしていたときは、チラチラと様子を見て気遣うようにしていたと聞きました。

よく覚えているのが、中学3年生のときの出来事です。進路のことで親と揉めていた私は、家にいづらくて、帰宅したのに玄関の前に座り込んでいたんです。すると、むぅちが私の横に並んで座って、静かに体を寄せてくれて。むぅちの優しさに胸がいっぱいになり、大号泣してしまいました。

——それは、心にしみますね……!

「なんて優しいんだ」「中に人間が入っているみたい」と思いましたね。だから今でもむぅちはお守りみたいな存在で、私の「特別」なんです。

大人になっても、ひとりでお風呂に入っているときとか、夜中にトイレへ行くときとか、ふと何かが怖いと思う瞬間があったりするじゃないですか。そういうときはいつも「むぅち来て」と念じて「半透明のむぅちが隣に寄り添ってくれている」イメージを思い浮かべます。

私はこれを「むぅち召喚」と呼んでいるのですが、ふしぎと怖くなくなるんですよ。得体の知れない怖いものから、むぅちが守ってくれる気がします。

別れは突然やってくる。わかさんの後悔とは

——とても聞きづらいのですが……、お別れのときのことをお話ししてもらえますか?

高校生のとき、部活が終わって帰宅したら、むぅちが吐いていたんです。そんなこと今まで一度もなかったからびっくりして、慌てて母と一緒に病院へ連れて行ったら、末期の大腸がんと診断されました。獣医さんに「もう手遅れで何もできない。今夜が峠です」と言われて自宅に返されたんです。

家で力なく横たわるむぅちを私たちは見守ることしかできなくて。でも、本当にギリギリの状態なのに、近づくと頭を上げて、しっぽを振ろうとするんですよ。そんなむぅちに「もういい、無理しなくていいよ」と声をかけて……。

最後は、父の腕の中で息を引き取りました。その後、父が庭に埋葬したのですが、私はショックのあまり立ち会えませんでした。

——急に具合が悪くなって、旅立ってしまったんですね……。

亡くなってから知ったのですが、レトリバーは腸の疾患を抱えやすいらしいんです。犬種的にも年齢的にも、病気になってもおかしくないのに、むぅちの様子をしっかり見れていなくて。悪化したのは自分のせいじゃないかと考えたこともありました。

中学・高校と部活が忙しくて、小学生の間は頑張っていたお世話を家族に任せきりにしていました。ごはんを食べているとなんとなく知っていたくらいで、便の状態も見れていなかったですし……。

——むぅちと過ごす時間が減って、病気の予兆に気づけなかったのかもしれないと……?

そうです。頭をなでるくらいの短い時間でしかスキンシップもとれていなかったので。「なんでもっとちゃんと接してあげられなかったんだろう」「面倒をみてあげればよかった」「もっと遊んであげればよかった」と後悔ばかりです。……すみません。泣けてきちゃった……。

絵本を通して子供たちに伝えたい「今」の過ごし方

——むぅちと暮らして、わかさん自身にはどんな変化がありましたか。

「今」目の前にある命に対して、100%の愛情を注ぐようになりました。

「生き物である以上はいつ死ぬかわからない」「命は儚い」と、むぅちとのお別れを通して痛感したんです。忙しくてむぅちに愛情を注ぐのを後回しにしたことを、今でも後悔しているので……。もちろん、むぅちはすごく優しいから、私を許してくれるかもしれません。ただ、後悔を繰り返したくはないんです。

——わかさんは、今も犬と暮らしているそうですね。

3年前に、メスのミックス犬をお迎えしました。名前は「もこ」です。もこは保護犬で、里親募集サイトを通して出会いました。夫も私も犬が大好きだし、子供にもペットとの暮らしを通じて命の大切さを教えたいと思っていたので、長男が4歳、長女が2歳のときに一緒に暮らし始めました。

——お子さんたちと、もこちゃんは仲良しですか?

そうですね。2人とも、もこのおかげで動物想いの優しい子に育っていると感じています。

特に長男のゆうともこは、お互いが大好きみたいです。ゆうが腕を骨折したとき、ギプスから出ている部分をもこが心配そうにペロペロ舐めて、守るようにずっと側についていました。ゆうも、いつも「もこちゃんもこちゃん」と言っているし、もこがいなくなったらきっと大変なことになるだろうなと思います。

ゆう君が腕を骨折したときの様子

——ゆうくんがすでに、もこちゃんとのお別れを恐れていると聞きました。

そうなんです。以前、犬の寿命は人間より短いと知ったゆうが、「もこちゃんはいつ死ぬの?」と聞いてきたんです。「ゆうが中学生か高校生のときくらいかもしれないね」と言ったら、「僕が中学生になったら、もこちゃんは死ぬんだ」と思っているみたいで。

最近は、少しの間離れるのも嫌がるようになりました。もこを実家に預けて旅行に行く計画を立てたときには、当日が近づくにつれ「僕がいないうちに死んじゃったら嫌だ」「もこちゃんが行かないなら、僕は行かない」と毎日のように泣いていたほどです。

——そのあたりを踏まえて、今回の絵本でわかさんがお子さんに伝えたい想いは? 「後悔のないように愛情を注ごうね」などでしょうか?

うーん、それも教えることができるならいいんですが……。「後悔」は、あえて学ばせる必要があるのかなと思っています。

私はむぅちとのお別れを通して「遺された者の後悔」を知っているから、「今」愛情を注ぐと決めています。でも、子どもたちはまだ小さいですし、これからの経験をもとに抱く感情を大切にしてほしい。後悔も、いずれ学びとるものなんだろうと思うんです。

——確かに、後悔は教わるものではないのかもしれませんね。

だから、私が子供たちに伝えたい想いは「お別れは悲しいだけじゃないよ」「もこちゃんがあなたの『今』を楽しくしてくれているんだよ」ということです。

私の胸の中には、むぅちと過ごした楽しい時間や癒された記憶がしっかりと残っています。だから「むぅち召喚」で現実を乗り切ることができる。後悔はあるけれど、むぅちとつくった思い出の一瞬一瞬が私のお守りになっているんです。

だから子供たちには、未来を怖がるのではなくて「今」を大事にしてほしい。もこと向き合う時間や自分の気持ちを大切にすることで、何があっても力強く生きていけるはず。今の時間や気持ち、コミュニケーションを大切にしながら、目の前の命とじっくり向き合ってほしいなと思っています。

取材・文:あやこあにぃ


絵本「わたしのとくべつないぬ」を、試し読みしたい方はこちらへどうぞ👇

動画制作:たね

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