素振りこそ上達の近道

広尾にある隠れ寿司バー。

ネタを並べず、兄さんが

その日の旬なネタを勝手に出す。

看板もない風変わりな店だが、

常連客には有名人も多い。


ある日、嫌がっていたゴルフを

兄さんが始めることになった。

世界的に有名な女子プロも常連で

彼にクラブセットを贈ったのだ。

「7番アイアンで素振りをするのよ」


彼は毎日、客が引き上げた後に

店前の路地で素振りをやった。

毎日、100回、繰り返した。

「半年、忘れずに続けるのよ」

女子プロは笑いながら命じた。


そんなことで上手くなれるのか。

ひどいスイングが身についたら

とんでもないことになる。

常連客にゴルフ好きは多い。

みんな、大いに心配した。


半年後、ゴルフ場に呼び出された。

アイアンのソールは素振りで削られ、

数字とブランドの刻印が消えていた。

世界の女子プロがボールを地面に置く。

「さあ、思い切って打ちなさい」


女子プロの卵たちが彼を取り囲む。

高鳴る鼓動と共にアイアンを振った。

ボールは快音と共に勢い良く飛び出し

青空に高々と舞い上がった。

「ナイスショット!」の大歓声。


兄さんは鳩が豆鉄砲の顔である。

世界の女子プロが笑顔で微笑んだ。

「素振りはその人に最も合った

スイングを身につけさせる」

世界の女子プロは岡本綾子だった。