「ダンサー・イン・ザ・ダーク」

「映画好きな人がね、ラース・フォン・トリアっていう監督が好きだっていうんだよ」

「知ってるよ。10年以上前に『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を見たよ。凄く重たい映画だった」

「見てたんだ。その作品が代表作だって言うから、DVDを買って昨日の夜、見たんだよ」

「どうだった?」

「気持ちが滅入ってしまった。何であんな映画撮ったんだろう。神様なんかいないっていう映画だった。救われない映画だったよ」

「確かに救われない。ミュージカルは愉しいものばかりなのに、不幸なミュージカル。そうしたものを作ったことが衝撃的で評価されたのかも知れないけれど」

「凄い映画だとは思う。ビョークの歌も曲も良かったし。でも、見る人の気持ちを暗くして何が面白いんだろう。あの映画をいいって言うなんて信じられない。僕にとってはとても嫌な映画だった」

「映画通の人でも賛否両論あるらしいよ」

「そうなんだろうね。でも僕はお金出して見るなら、気持ちをハッピーにしてくれる映画が好きだ。音楽もそうだよ。暗い音楽でも気持ちが慰められることもある。あの映画はそういったことがない。ますます暗くなるだけだった」

「見なきゃ良かったね」

「うん、本当にそう思う。今日は朝から気分が悪い。体の調子まで悪くなってしまってる。このところずっと気分がよかったのに」

「やはり見なきゃ良かったね」

「うん、怪我や病気で苦しんでいる人や、心の病を持っている人は絶対に見ないほうがいい。希望が持てなくなるよ」

「だから、あなたは嫌なのね」

「そう、絶対に見ちゃダメだ。心底そう思う」