カルヴァドスとバーグマン

カルヴァドスなる酒を知ったのは
映画という『凱旋門』だった。
原作は『西部戦線異状なし』の著者、
エリッヒ・マリア・レマルク。
主役はシャルル・ポワイエと
イングリッド・バーグマンだった。

あまりに美しいバーグマンに見惚れて、
映画の筋などまるで覚えていないが、
カルヴァドスのシーンは記憶にある。
セーヌ川に身を投げようとしていた
バーグマンをポワイエが助け、
カルヴァドスを飲ませて元気づけた。

その後もシャンゼリゼのカフェ、
「ル・フーケッツ」で度々、
カルヴァドスがこの映画に登場する。
この酒は林檎を用いたブランデーで、
ノルマンディー産だけが
カルヴァドスを名乗ることができる。

先日このカルヴァドスを偶然見かけ、
久しぶりに味わった。
若い頃は強いばかりの気がしていて、
恐る恐る舐めるように味わうと、
ほんのりと林檎の香りがして旨い。
バーグマンの憂いを帯びた瞳が蘇った。