第九の“VOR GOTT!”

毎年暮れに
ベートーヴェンの
第九を歌っていた。
夏から練習して、
本番のコンサートは
上野文化会館大ホール。
10年以上歌い続けた。

この第九で合唱が
最も盛り上がるのは
“VOR GOTT!”。
フォルテッシモで
限りなく伸ばす
フェルマータで歌う。
オーケストラも大音響だ。

ところがここで
ティンパニだけが
ディミヌエンドする。
「何でなんだ!」と
元打楽器奏者だった
亡き岩城宏之さんは
大いに疑問だった。

そんな岩城さんが、
あるときベートーヴェンの
直筆のスコアを見た。
なぐり書きのような譜面は
フェルマータの線が延び、
ディミヌエンドにも見えるが、
フェルマータである。

写譜屋が間違えたのだと
合点がいった岩城さん。
それ以来、ティンパニも
フォルテッシモの
フェルマータにするよう指示。
疑問と欲求不満は解消され、
素晴らしい演奏となった。

世界広しといえど、
そのように演奏させた指揮者は
ジョージ・セルと自分だけと
『楽譜の風景』に書いている。
今さらながら岩城さんって
凄い人だったと感心。
岩城さんの第九をじっくり
聴いてみたいと思っている。