マイルスとエヴァンス

痩せた白髪の哲学者のような
風貌のギル・エヴァンスが、
マイルス・デイヴィスのために
「アランフェス協奏曲」を編曲、
クールなジャズ協奏曲になった。

ギル・エヴァンスは
部屋に入ってきたマイルスと
原稿用紙何枚分にも及ぶ
マイルスの演奏パートについて
話し合いを求めたという。

マイルスのスペイン音楽は
新しい実験の数々と言っていい。
「俺はいつも、できないことを
何とかやってみようとするのさ」
納得いくまで話し合いは続く。

時には余計なことまで言う。
「いつか自分に電話をかけて、
『黙れ』って言おうと思ってる」
エヴァンスが指揮をし、
何度もテイクが繰り返される。

悲しみに沈んだスペインのメロディ。
マイルスの即興は理知的で艶がある。
「メロディがとても強いから
柔らかく演奏するほど強くなるし、
強く演奏するほど弱くなるんだ」

マイルスとエヴァンスのタッグは
二人の想像を遙かに超えた
宇宙を形成することに成功した。
漆黒の闇を突き抜けるような
鋭く透明な孤高の世界である。

「アランフェス協奏曲」を創造した
ホアキン・ロドリゴも驚愕しただろう。
スペイン音楽の陰影を残したまま
黒人ブルースの魂が入り込み、
静謐な悲哀が滲み出ている
歴史的な名演奏になった。