初めての低山登山

あるときふたまわりも上の

先輩老人から山登りに誘われた。

「低山だから大丈夫だよ」

彼は低山登山の達人だった。


かつては深田久弥が書いた

「日本百名山」に感激し

北は阿寒岳、南は開聞岳と

すべての山を登ってしまった。


彼の妻や僕の妻も一緒に

8人くらいの素人が集まり、

那須連邦の茶臼岳に登った。

手始めの標高1915mだ。


麓から見れば頂上は遙か遠い。

「登れるのかな」と思いながら

前の人の背中を見ながら

一歩一歩、足を前に踏み出す。


お喋りしながら、

休憩を取りながら、

少しずつ登っていく。

すると頂上が見えてきた。


ふうふう言いながらも

なんとか頂上に辿り着く。

空が青く澄んでいる。

下界は遠くに広がっていた。


とっても気持ちいい。

ただ登るだけなのに

なんなんだろう?

この爽快さ、達成感。


おにぎりを食べる。

「うわーっ、旨い!」

ただの梅干しのおにぎり。

水も飛びきり旨いのだ。


「戻りは野性の石楠花や

満天星を見ながら下りよう」

先輩老人が言った。

花が僕らを待ち構えている。