「オッティモ!」

イタリアの食文化が

日本とは比較にならないほど

凄いなと思ったのは

どんな路地裏の食堂でも

街角のうらぶれた食堂でも

旨いということである。


初めてイタリアに行ったとき、

夜中にローマに到着して

腹が空きすぎて何も考えずに

駅前食堂に飛び込んだ。

日本ならどこにでもある

駅前の蕎麦屋という風情だ。


ローマの駅前食堂は薄暗く

何人かのお客が食べていた。

メニューを見てもわからないし、

『やさしい旅行イタリア語』を

取り出してレストランの項を見て

「スパゲッティポモドロ」と告げた。


やがて店のオヤジが持ってきた

そのスパゲティは茹で立てで

真っ赤なトマトとともに

旨そうな湯気を立てている。

一口頬張ってみると、

あららら、メチャクチャ旨い!


僕の顔を見てオヤジが聞いてくる。

「どうだい?」と言ってるようだ。

そこで先のガイドブックをめくり

「旨い」の単語を探して言った。

「オッティモ!」

オヤジは驚き、そして喜んだ。


店のお客全員に向かって

「オッティモ、オッティモ」と

大声で大騒ぎしている。

「日本人が俺の店の料理を

オッティモと言っている」と

歩き回りながら叫んでいる。


お客たちもオヤジの叫びで

僕の顔を見て大きく微笑んでくる。

あとでわかったのだが、

「オッティモ」は旨いの最上級。

普通は「ボーノ」だそうだ。

「最高に旨い!」と言ったわけだ。


おそらくこの駅前食堂で

僕は「オッティモ」と言った

初めての客だったのかも知れない。

でも、店はうらぶれてはいたが、

パスタは本物だった。

間違いなくメチャクチャ旨かった!


今でも蘇るあの駅前食堂と

あのオヤジの「オッティモ」の叫び。

忘れられない本場の初パスタだった。