スペインの熱い魂

「気持ちが熱くなってしまって」
エンリケ・グラナドスの
「スペイン舞曲集」を弾き終え、
中島由紀さんは声を出した。

昨秋のリサイタルでは
ベートーヴェンの最後の
ピアノソナタである32番を、
渾身の思いを込めて弾いた。

今春のプログラムは
スペインの作曲家特集である。
由紀さんは黒いドレスの上に
真っ赤なヴェールを装った。

イサーク・アルベニスの
「イベリア」が奏でられる。
アンダルシアの光景が
目に浮かぶ彼の最高傑作。

マヌエル・デ・ファリャの
「三角帽子」がラスト曲。
代官と粉屋の話が
バレエ曲となったもの。

バレエ・リュスの
セルゲイ・ディアギレフは
ピカソに舞台と衣装を
デザインさせて大成功。

ピアノ曲にアレンジされ、
超絶技巧が試される。
由紀さんの魂を込めた
演奏がホールに響き渡る。

もはやここは東京ではない。
ギラギラと太陽が照りつけ
フラメンコダンサーが踊る、
灼熱のアンダルシアである。

粉屋の女房が乗り移った
由紀さんの演奏が終わる。
粉屋の街に平和が戻る。
ピアニストも聴衆も
ほっと胸を撫で下ろす。