酒宴のラグビーボール

ラグビー部のOB会。

酒を飲み、馬鹿っ話をし

大いに笑い、どつき合う。

そんなとき、誰かが

楕円形のボールを見せた。


「おっ」と言って取り上げ、

隣の人間に渡す。みんな、

久しぶりに触ったようだ。

僕も同じだ。実に、

40年ぶりに触っている。


ひとりふたりと立ち上がる。

ボールを持っていたヤツが

パスを送った。同時に

楕円形のボールが回り始めた。

僕も立ち上がる。


緩い山なりのパスだから

上手く受け取れた。

隣のヤツにパスを出す。

そいつがまたパスを送る。

ボールがどんどん回る。


遂に集まった全員が立った。

もはや先輩も後輩もない。

みんな、大笑いでパスを回す。

これだけでラグビーの気分。

部屋に風が吹き始めた。


たったこれだけのことなのに、

なんでこうも楽しいのだろう。

酒に酔っているからだろうか。

いや、古き佳き思い出が

じゅんじゅん蘇ってきているからだ。


楽しい楽しい楽しい。

猛烈に、強烈に楽しい。

たった1個のラグビーボール。

それがもたらす素晴らしい高揚。

今度はグラウンドでパスを回そう。


誰もが誓ったに違いない。