本物の力、佐伯祐三

佐伯祐三の回顧展を
東京ステーションギャラリーに
観に行った。
彼の描いたパリの建物が好きで
絵画集も所持しているが、
本物の油絵は印刷物とは
桁外れに違っていた。

佐伯祐三は結核を患い、
僅か3年のパリ生活の果て、
30歳の時に夭折した。
命が儚いことを知っていたのか、
気が触れたように絵筆を執った。
毎日一つ描き上げるという
凄まじい情熱だった。

佐伯が描くパリのどの建物も
魂が込められている。
命が宿った建築物である。
靴屋も洗濯屋も煉瓦焼き屋も
新聞屋もレストランも、
どの店も息づいている。
街角も公園も教会も生きている。

そして今回の回顧展を見て
これらの建築物などの絵に、
小さな人が描かれていることを
初めて僕は知った。
案山子のような痩せた男や女が
影のように歩いたりしている。
パリの人々の生活が垣間見えるのだ。

他人の顔や自画像も素晴らしい。
どきりとする生々しさである。
「立てる自画像」と裏に描かれた
「夜のノートルダム」に胸を打たれる。
しかし、死ぬ直前に描いたという、
「ロシアの少女」と「郵便配達夫」は
圧巻の迫力で言葉を失った。
100年も前の絵がいきいきと蘇る、
生き霊か死に霊でしかあり得ない。