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ちいさな歯の話④入院前編

入院前夜、手術後に貧血になったら困るからとレバニラを食べ、しばらく飲めないからと缶ビールをばっちり飲み、せっせと荷造りをして、入院のしおり的なものを見てワクワクしつつ早めに眠りについた。

そして入院当日の朝。起きて荷物を確認していたら、持っていかなければいけない大切な書類に何一つ記入していないことに気がついた。己のへっぽこさに呆れつつ一通り名前なり住所なりをかき、印鑑を押して無事に書類を完成させた。

家を出る少し前にいつも午後まで寝ている姉が布団から出てきて、大げさに言ってらっしゃい!!と言いながらハグしてくれて、最後にと歯が生え揃っている状態で私の写真を撮ってくれた。病院までの道のりは好きなアイドルの動画を見てなんとか心を落ち着かせた。

病院につき、入院の手続きを終えるとさっそく病室に案内され、元気な看護師さんに採血をしてもらった。
血管を見ながら「若いなー!!20代の血管は若い!!ハリがある!!」と言われながら血を取られ、少し談笑し、午前中の最後か午後早めに手術が行われると伝えられた。この時点で10時30分。

同じ部屋には4人の患者さんがいて、うち2人はおばあさん。
私ともう1人は抜歯のための入院だった。カーテン越しに聞こえてくる話し声から推測すると多分同い年ぐらいの女性。

頭と足を昇降できるベットに薬の香り。そして自分のベットの脇に立っている点滴のスタンド・・。めっちゃ入院じゃん・・。少しテンションが上がる。
じっとしてられなくなり、点滴をガラガラ引きずりながら歩いて回る。

飽きたので病室に戻り、サイドテーブルでiPadを開いて秋に行く旅行のための旅券を予約したり少し作業していると、もう1人の抜歯入院の方が呼ばれて病室を出て行った。
それが11時のこと。

私の手術の時間も確実にじりじりと近づいている。気を紛らわすために、絶対今じゃなくていいのに新しいクレカを作ってみたり、再びアイドルを見たり、千鳥の相席食堂を見てくすくす笑って過ごした。内心気が気じゃなくてチラチラと時計を見ながら冷や汗をかいていた。もう12時、まだ先に行ったあの人は帰ってこない。

空腹に耐えながらもyoutubeで暇をつぶして13時。ついに看護師さんが現れて13時50分に口腔外科に行きますよ~と優しく伝えられた。

家族や無職の友人、気軽に話せるグループラインに「もうすぐ…怖い…」と送り、励ましをいただき、またやり過ごす。
いそいそと点滴を引きずってトイレにいき、戻ってくると同時に看護師さんが迎えにきてくれて、口腔外科へと向かった。

てっきりよくドラマで見る手術台に乗せられて眩しすぎるライトを直視するのかと思っていたら、いつもの診察室に案内された。
いつも通り診察台に座らせられ、胸元に白いタオルを掛けられていつも通りではない処置が始まった。
まずはでっかい注射器を口の中に入れられ、歯茎に局所麻酔麻酔を打たれた。
これがまあ痛いこと。泣きそうな痛さではなくてちょっとキレそうになるほど痛かった。そしてその後、酸素のチューブを鼻につけられて、いざ手術っぽくなってきてテンションが上がってきたところで眠くなる薬が投入されて、2秒ぐらいで撃沈した。

目が覚めると、机の上のトレイになんとまあワタシの可愛い歯が8本転がっていた。でもよく見ると10本以上あるように見える。
どうやら親知らずは輪切りにされているらしい。ひどいことをするもんだ。

麻酔で頭がぼんやりしていたけど、看護師さんから「持ち帰りますか?」と言われて即答で要らないですと答えられるくらいには冷静だった。
病室に戻りますよ~と言われていざ立とうとしたら、初め白かったタオルに血しぶきが飛び散っていてめちゃくちゃ笑ってしまった。
なんだかそのあとは記憶が曖昧で、気づいたら病室のベットの上で、大量の綿を噛んでる状態で目が覚めた。気がついたらもう15時を回っていた。

退院まであと20時間


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