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PERCHの聖月曜日 87日目

民衆の側における生活の自立・自存にたいしてブルジョアの仕掛けた撲滅運動は、下層の平民大衆が、経済的に別々にされた男性と女性からなる、清潔な生活をいとなむ労働者階級へと変化したときにはじめて、大衆の支持をかちとることができた。この階級の一員として、男性は自分の雇用主と共謀することになった。両者はともに経済の拡張に関心をもち、人間生活の自立・自存の抑制に関与したのだった。とはいえ、こうした撲滅運動にさいして資本と労働のあいだのこの基本的な結託関係は、階級闘争という儀式によって隠蔽された。同時に男性は、ますます賃金への依存度を高める家族の長として、社会が正当とみなす労働のすべてを負わされ、しかもそれを不生産的な女性から絶えず強要されていることをいやおうなしに感得させられた。家庭において、また家庭をとおして、産業的な労働の二つの相補的形態、すなわち賃労働と〈シャドウ・ワーク〉とが結びあうことになった。生活の自立・自存の活動から、ともに効果的に遠ざけられた男性と女性は、雇用主の利益と資本財への投資のためになされる、他者による搾取の誘因となった。しだいに、剰余はいわゆる生産手段に投資されるだけではなくなった。〈シャドウ・ワーク〉そのものが、ますます資本集約的なものになっていった。家や車庫や家庭用台所への投資は、生産=消費の場としての家庭から人間生活の自立・自存の基盤が消滅し、〈シャドウ・ワーク〉による独占が明らかに増大してきていることを反映している。けれども、この〈シャドウ・ワーク〉はこれまで一貫して秘匿されてきた。

ーーーI.イリイチ『シャドウ・ワーク–––生活のあり方を問う』玉野井芳郎・栗原彬訳,岩波書店,2006年,p223-224

Unknown
Crazy Quilt
ca. 1880–1900

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