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2015年の是枝裕和監督トークイベント、友人による記録。

2015年7月8日、表参道のRainy Day Bookstore & Cafeにて、「映画監督・是枝裕和トークイベント」の司会進行を務めさせていただきました。

これは6月3日に発売した是枝裕和監督対談集『世界といまを考える 1』の発売記念を含め、公開中の『海街diary』の制作秘話や、雑誌『SWITCH』との20年について語っていただいたものです。

小雨でお足もとの悪い日にもかかわらず、おかげさまで70名超の方々にお越しいただきました。ありがとうございました。また、是枝監督も「秘話」というのにふさわしいとっておきの話をしてくださいました。

友人の吉野美沙緒さんがまとめてくださった備忘録を、本人の許可を得て、以下に転載します。

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水曜日は雑誌『SWITCH』のカフェRainy Dayがある西麻布まで、是枝裕和監督のトークイベントに行ってきました。友人が司会進行をするとのことで、それも楽しみで。(本業はライターさん。今回のトークイベントのきっかけになった『世界といまを考える』の企画・編集をされた堀香織さん。雑誌『SWITCH』ではCoccoの担当ライターだった方。)

是枝監督が、原作の『海街diary』を読んで「これを作品にしたい!」と考えたときには、すでに違う方が映像化する予定だったそうです。しかし、それは結局実現されず、是枝監督のところに「白紙になりました」と連絡が来たそうで、監督は「ヨシ!」と思ったそうな。しかし、本当は是枝監督も海街は連ドラにする予定だったとか。

プロジェクターのスライドでは、広瀬すずちゃんのオーディション前の写真を紹介。ほんの2年前は本当に素朴だった静岡にいる中学生。「セーラー服がまだ大きいんですよ」と、監督。海街の撮影の合間に香田家の居間でアイスを食べている写真やら、4姉妹の撮影の合間のリラックスした表情の集合写真やら、数枚見せてもらいました。

すずちゃんには脚本を渡して撮影をするか、是枝監督の手法の監督が口伝えをして台詞を言うか、撮影方法を本人に選ばせたそうです。そして本人が「この映画でしかできないから」と、口伝えを選んだそうです。

映画ではサッカーの上手さが際立っていたけど、もともとバスケをしていたので、そのコツがわかっていたとか。でも、ゴールシーンを撮ったら本人があまり喜ばず、「もっと喜んで」と(監督が)言ったら、「こんなゴールシーンじゃ喜べません」と言われ、撮り直しをしたそうです。

『海街diarry』で風太役だった前田旺志郎については、関西弁だとおしゃべりだったけど、東京弁を話させたら、話すときに考えて話すから、そこから産まれた「間」がなんともいい感じだった、と。また、すずちゃんと仲良くさせるために、鎌倉の街から海へ二人でデートをさせたそうです。(とはいえ本当にふたりきりにさせると心配なので、「はじめてのおつかい」状態でスタッフが尾行してのデートをさせた。)

香田家の居間のイメージ図が数枚ありました。鎌倉で『海街diary』のイメージにあった古民家探しはなかなかなく、大変だったそう。平屋だったり二階建てはすでに文化財になっていたり。「ここだ!」と思った古民家からはインド人の方が出てきて、しかもフンドシの魅力にとりつかれていたインド人で、是枝監督がフンドシを巻かれたと(笑)。

で、ようやく見つかる一軒家も当初は外見だけの許可だった。仕方ないので当初はその家を外から撮影し、家の中と庭はセットの予定だったけれど、監督が古民家にお邪魔をし、家の中を見せてもらい、居間の撮影許可をもらい、二階にも上がらせてもらい、二階の許可をもらい。そして、あの撮影が実現したそうです。

ただ台所は古民家とはいえ、リフォームされており、台所だけは唯一セットだったそうな。トークイベントのお客さんとの、
「台所、セットに見えなかった?」
「見えなかったです」
「やった!」
という、そんなやりとりが微笑ましい。

『海街diary』は葬式で始まり、7回忌があり、もう一度葬式で終わる。死の淵にある映画に陥らないように、夏帆演じる千佳に食を担当させ、長澤まさみ演じる佳乃にはエロス=性を担当させたとのこと。そんな話を映画のティーチインのときにしたら、速攻マスコミの記者に「長澤まさみエロ担当!」と書かれ、腹を立てたそうです。「エロス担当」と「エロ担当」ではだいぶ違う、とのこと。

樹木希林さんや田中裕子さんが、ごはんをおほばりながらのお芝居がいかに上手か。夏帆にも食べることで作品を明るいものにしてほしかったから、食べること7割、セリフ3割でお願いした、というお話も。

秋からは海外の映画祭がはじまるので、映画とともに監督は旅をするそうです。アメリカではソニーが『海街diary』の版権を買ったそうで。ソニーの会長が綾瀬はるかをえらくお気にいりで、「ハラセツコ! ハラセツコ!」と絶賛しているそうな。食事に行く予定だけど……、と(監督が)ちょっと心配していました。

海外に行くと「コレエダの作品は小津安二郎に似ている!」と絶賛されていたけど、若かりしころは「小津とは違います」と反論していた。でも、「あ、海外の人にとって最高の褒め言葉なんだな」と気づいたら受け入れられた。是枝監督と小津安二郎の作品に共通している「時間軸の描き方」について、是枝作品も小津作品も、物語とともに季節が始まり、季節が巡り、物語の始まりの季節に戻り、作品が続いていく感覚がある。海外では時間は円を描かずに、直線的に進む。それはなぜなのか、という話をされていました。

亡くなっている人が、さも存在しているかのような物語。『歩いても歩いても』でも、亡くなっているはずの兄の存在感で物語が展開していく。海外ではそのような展開はなかなかない。日本独特の宗教観からきているのではないか。神様はいない、死者=仏様の存在で動いていく物語。

そのような1時間のインタビューを終えて、会場にいるお客さんと質疑応答タイム。

【Q1】2時間ドラマと映画づくりとの違いは?
【A1】あまり変わらないんじゃないか。ただ、2時間ドラマには魅力は感じていない、とのこと。監督は変わらないといっていたけど、観客は映画館でみる世界観と家のテレビでみる世界観がある、と私は思う。

【Q2】 長澤まさみがあの映画では相当キラキラしているが、それは狙いか?
【A2】そのとおり、とのこと。七回忌のあとに家に帰ってきて、カメラのはじっこで喪服のままストッキングを脱ぐシーンがあり、質問をしながらそこを絶賛する男性がいましたが、是枝監督もあのシーンが「一番スキ!」と(笑)。当初、「喪服を着ながらストッキングって脱げないかな」と提案したら、助監督に「スカートを履いた上からストッキングは脱げないですよ!と反論されたけど、監督が長澤まさみに「脱げる?」と聞いたら「やってみます」と言ってくれて実現したそうです(笑)。

【Q3】 広瀬すずちゃんと前田旺志郎くんをデートをさせたといったが、いままでの作品にもそのようなワークショップをしたことはあるのか?
【A3】監督が「ワークショップ」という言葉にフリーズしちよっと面白かったです。「いや、ワークショップはさせていないです……」と。ただ『そして父になる』ではそれぞれの家族の役にそのままの家族のように街を歩いてもらったりしました、と。でも、答えた後も、ワークショップという言葉が引っかかったらしく、「ワークショップ…ワークショップ…」とつぶやいておられました。

【Q4】 是枝作品と音楽の関係性について。
【A4】作品に音楽はあまり入れないようにはしている。とのこと。でも、映画『奇跡』のときにくるりの岸田さんに映画の音楽を依頼して、岸田さんが作品を観てつくり、送られてきたものを監督が編集したら、岸田さんから「大人が手を出せない子どもの世界をせっかく演出したのに、この編集で、子どもの世界に大人が手を出してしまっていると思うんです」とご意見をいただいて、岸田さんのつくったとおり、もとに戻したそうな。
『海街diary』の音楽は菅野ようこさんが担当。当初はモーツァルトなどを充てて作品を作っていたけど、長澤まさみが「菅野さんはどうか」と提案して、彼女の楽曲を作品に流したらぴたりと合って、翌日に依頼の電話をした。菅野さんは、あまり目が見えないから映画を見ながらはつくっていないとは言うけれど、本当に合う音楽をつくってくれるし、ちょっとイメージが違うなあと思って意見を伝えると、伝えた5分後くらいにぴったりとした音楽が届くとのこと。是枝監督、音楽家の世界観に感慨深い雰囲気でした。

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下の写真は終わってから関係者のみの会食にて記念撮影、ぱちり。



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