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ことばについて

いつだって僕たちは ことば探しに忙しい
ことばの支えをもとめて

でも そういうことばが
先に見つかるということは
ほとんどないのかもしれない

まっくらな洞窟を抜けたあとで
日のひかりに目を細め
明るい場所から しばらくその暗い穴を見つめ
それから家に帰って
いつもの椅子に座って
濃いコーヒーなんか飲んでいるときに
ふと 思い出すのだ

暗闇のなかで
ポケットに手をつっこんで
握りしめていた
ことばがあったということを

それはたぶん
化粧箱に入った
立派なことばなんかじゃなくて
子どもが遊んだあとに残された
粘土のかたまりのような
とりとめのないことばなのかもしれない

でも間違いなくあのとき
そのことばが僕を支えていたのだ

僕はゆっくり
手をひらいてみる
でもそこに ことばはもういない
複雑なかたちに刻まれた
無数のしわがあるだけだ