『好奇心の穴』

ぼろのアパートには、壁に小さな穴が空いていた。

それに気づいたのは、越してきてから半年が経とうとした頃。

模様替えをしようと、小さい目のタンスを動かしたときに見つけたものだった。

入居当初から、角部屋に住む隣人は決まった時間になるとドンドンと騒がしくなり、20分もしないうちにまた静かになる。

それを繰り返していたが、注意するのはあまりに怖かったのでその時間を避けて帰宅するようになっていた。

けれど、その穴は好奇心を刺激した。

隣人は、どんな人なんだろうか。その答えを穴が教えてくれるような気がした時にはすでに覗いていた。

目の前に広がるのは、以外にもキレイな部屋だった。

真っ白な壁に、真っ赤なペンキで何かが描かれていた。

人の気配がしないことが少し気になったが、人の部屋を覗くなんてあり得ない!と覗くことをやめた。

だが、やはりきになるもので翌日には、駄目だと思いながらも覗いていた。

すると、相変わらず真っ白な壁に赤いペンキで何かが書かれている。アートだとすればとても前衛的だ。

だが今日は、また色味の違う赤で描き足されていたようだった。

次の日も、また次の日も、覗くたびに書き足されていく。

ある日、隣人がドタバタするはずの時間に家に帰ったのだが、どうも隣が静かだ。

こんなこと初めてだ。その思いが好奇心を強く刺激してしまった。

タンスを少しだけずらし覗いてみると、白かったはずの壁は真っ赤に染まっていた。

視線を少し落とすと黒い塊が目に入る。

言葉を失って咄嗟に穴から離れると同時に、その穴から千枚通しが狂喜乱舞していた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?