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安全衛生に関する法律

労働者の安全衛生に関する法律には、労働安全衛生法をはじめいくつかの法律があります。特に労働安全衛生法には、労働災害防止のために守らなければならない事項が規定されています。法律の施行に伴う具体的な事項については、政令や省令、告示等で示されています。

法・施行令・規則はどのように違いますか?

法律:国会両院の議決で成立します。なお、法律案について参議院が衆議院と異なった議決をしたときは、衆議院が出席議員の3分の2以上の多数で再び可決すれば法律となります。法律は、主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署し、天皇がこれを公布します。

政令:憲法及び法律の規定を実施するために内閣が制定する法令で、閣議によって決定し、主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とし、天皇が公布します。一般的に、政令のことを「施行令」と呼びます。

省令:各省大臣が、主任の行政事務について、法律若しくは政令の特別の委任に基づいて発する法令です。厚生労働大臣が定めるものを厚生労働省令といいます。一般的に、省令のことを「施行規則」と呼びます。

告示:公の機関が法令に基づいて指定、決定等の処分その他の事項を一般に公に知らせる行為又はその行為の形式の一種で、法令としての性格をもつことになります。

通達:各大臣、各委員会及び各庁の長が、その所掌事務について、所管の諸機関や職員に示達する形式の一つで、執務上依拠しなければならない法令の解釈や運用方針等を内容としています。

労働安全衛生関連法令にはどのようなものがありますか?

労働基準法(法律)
 労働基準法施行規則 (省令)
 女性労働基準規則(省令)
 年少者労働基準規則(省令)

労働安全衛生法 (法律)
労働安全衛生法施行令 (政令)
 労働安全衛生規則(省令)
 ボイラー及び圧力容器安全規則(省令)
 クレーン等安全規則(省令)
 ゴンドラ安全規則(省令)
 有機溶剤中毒予防規則(省令)
 鉛中毒予防規則(省令)
 四アルキル鉛中毒予防規則(省令)
 特定化学物質障害予防規則(省令)
 高気圧作業安全衛生規則(省令)
 電離放射線障害防止規則(省令)
 東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を
 除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則(省令)
 酸素欠乏症等防止規則(省令)
 事務所衛生基準規則(省令)
 粉じん障害防止規則(省令)
 石綿障害予防規則(省令)
 機械等検定規則(省令)
 労働安全コンサルタント及び労働衛生コンサルタント規則(省令)
労働安全衛生法関係手数料令 (政令)

じん肺法(法律)

作業環境測定法(法律)

労働者災害補償保険法(法律)

健康増進法(法律)

労働安全衛生法

労働者の安全と健康を確保するための安全衛生対策等については、労働基準法(昭和22年法律第49号)の中で定められていました。しかし、昭和30~40年代になると、急激に変化する産業社会の実態に災害防止対策が即応できないこと等から、労働基準法の「安全及び衛生」の部分と労働災害防止団体等に関する法律の「労働災害防止計画」及び「特別規制」を統合したものを母体とし、新たに規制事項や国の援助措置等の規定を加え、安全衛生に係る法制の充実強化を図るため、労働安全衛生法が制定されました(昭和47年法律第57号)。
この労働安全衛生法の目的は、第1条に示されていますが、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立責任体制の明確化自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的、計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的としています。
また、第3条には、事業者は単に労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現労働条件の改善を通じて、職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならないことになっています。また、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければなりません。
さらに、第4条には、労働者は労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならこととされています。

参考:
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/dl/100119-1b.pdf

安全配慮義務とは何ですか?

労働安全衛生法第5条には、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と書いてあり、これを、安全配慮義務といいます。この安全配慮義務が、職場における労働災害を未然に防止するための安全衛生管理上の義務といえます。また、労働契約法の第5条(労働者の安全への配慮)にも、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と記載されています。安全配慮義務を履行するために、企業は具体的には、労働災害の「危険発見」と「その事前排除(予防)」をする必要があります。

危険発見
職場における危険、特に働いている人の周りにある危険を予知して発見する
事前排除(予防)
リスクを除去したり低減させたりし、残存したリスクに対しては作業者にその存在などを示し、危険が顕在化しないように対策をとる

安全配慮義務を怠って労働災害を発生させると民事上の損害賠償義務が生じます。ただし、安全配慮義務は、事業者が労働安全衛生法を守っているだけでは完全に履行されたことになりません。労働安全衛生法はあくまでも守るべき最低限のもので、法定基準以外の労働災害発生の危険防止についても、企業は安全配慮義務を負っています。すなわち、労働安全衛生法上の刑事責任を免れることと、民事上の損害賠償責任とは必ずしも一致するものではありません。

参考:
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/dl/100119-1e.pdf

労働災害が生じた際、事業者・企業にはどのような責任がありますか?

(1)刑事上の責任
労働安全衛生法では、事業者に対して労働災害防止の事前予防のための安全衛生管理措置を定め、これを罰則をもって遵守を義務づけています。労働災害の発生の有無を問わず、これを怠ると刑事責任が課せられます。
また、業務上労働者の生命、身体、健康に対する危険防止の注意業務を怠って、労働者を死傷させた場合、業務上過失致死傷罪(刑法第211 条)に問われることになります。

(2)民事上の責任
被災労働者又は遺族から労働災害で被った損害について、不法行為責任安全配慮義務違反で損害賠償を請求されることがあります。その請求により労災保険給付が行われた場合、事業者は労災保険給付の価額の限度で損害賠償の責任を免れます。
しかし、労災保険給付では精神的苦痛に対する慰謝料など損害の全てをカバーしているわけではありません。労災保険給付を超える損害に関しては、民事上の損害賠償の責任が問われます。
事業者が民事上の損害賠償の責任が問われる法的根拠として、最近は、「労働契約の付随義務として安全配慮義務を尽くして労働者を災害から守らなければならない債務不履行責任(民法第415 条)」による損害賠償を認める裁判例が多く見られます。

(3)補償上の責任
労働者が労働災害を被った場合、被災労働者やその家族が生活に困らないように保護する必要があります。そこで、労働基準法及び労働者災害補償保険法によって使用者の無過失責任として、業務の遂行に内在する危険性が現実化して事故が発生した場合には、労働者の治療と生活補償を目的とする補償を使用者に義務づけています。

(4)行政上の責任
労働安全衛生法違反や労災発生の急迫した危険がある場合には、機械設備の使用停止や作業停止等の行政処分を受けることがありますし、取引先(他官庁)からの取引停止(指名停止)を受ける等の処分を受けることがあります。

(5)社会的な責任
(1)から(4)の責任を負った企業は、社会からの信頼性が低下することは明らかであり、また、労働災害による直接及び間接コスト(間接コストは、直接コストの4倍になると言われている。)により、企業としての基盤が危ぶまれることとなります。

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