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【現役医師との対談】医師の課題に寄り添う臨床支援アプリ

医師という職業が、コロナ禍を通して改めて世間からの注目と尊敬を集めています。また、医療とテクノロジー双方の進歩に伴い、医療×ITという文脈で語られるスタートアップやサービスは増え続けています。しかし、多くの人にとって、実際の医師の働き方であったり、それらのサービスがどのように医療に貢献しているのかは未知の部分も多いのではないでしょうか。

私たちは、医療×ITスタートアップとして、医師向けに臨床支援アプリを提供しています。今回、ともするとイメージが湧きづらい私たちのサービスをより多くの方々に知っていただきたいという思いから、当社取締役でありプロダクト開発の責任者である山本をホストとして、聖路加国際病院で救急科医として働く清水先生との対談の機会を設けました。清水先生は、元々ユーザーとしてHOKUTOを活用されており、現在では縁あってHOKUTOのコンテンツ開発のプロダクトマネージャーとしてご活躍いただいています。

「医師としての臨床への向き合い方」や「臨床現場でのデジタルデバイスの活用の仕方」、「実際にHOKUTOを臨床でどのように活用しているのか」などについてのお話しを伺いました。私たちの取り組みに触れ、少しでも興味を持っていただけますと幸いです。

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山本久智 株式会社HOKUTO 取締役 / プロダクトマネージャー
1990年生まれ。東京大学工学部卒。
株式会社メルカリの創業時に参画し、複数の事業を牽引。
2020年11月にメルカリを退職し、2021年1月に株式会社HOKUTOに参画。
臨床支援アプリHOKUTOの開発全般を担う。

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清水真人先生 聖路加国際病院 救急救命センター
2013年慶應義塾大学医学部を卒業。初期臨床研修修了後、2015年聖路加国際病院救急部入局。就任間もなく聖路加ベストティーチャー賞を連続受賞。救急・集中治療、 医学教育を専門とする他、Webツールの医療現場での利用に精通し、複数の雑誌で連載を行う。

医師として全ての患者さんに最善を尽くす

山本:本日はお時間いただきありがとうございます。早速ですが、清水先生の救急科医としての普段の働き方について教えていただけますでしょうか。

清水先生:現在、聖路加国際病院の救急科で働いています。聖路加では外来患者が年間4万人、救急車の年間受け入れ台数は都内でも一番多い1万台超を受け入れています。患者さんが1日平均で100人来院される状況です。聖路加の救急科はER型(基本的に全ての救急患者に対応する救急初期診療体制のこと。ER医は重症度、傷病の種類、年齢に関係なく、すべての救急患者の診療を行う)なので、重症度に関わらず、すべての患者さんを診ています。患者さんは新生児であったり高齢者であったり、診療科目は内科・皮膚科・形成外科であったりと様々です。風邪など比較的軽症の患者さんを診療する合間に、重症度の高い患者さんに心臓マッサージをするようなイメージです。

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病院前に並ぶ救急車

山本:医師の長時間労働がよく問題になっていますが、本当に忙しく働かれているんですね。お忙しい中でも、清水先生が救急科医として、ひいては医師として大事にされていることはありますでしょうか?

清水先生:医師は目の前の患者さんに一人一人に最善を尽くす責務があり、どんなに忙しくてもその責務を果たすことを念頭において臨床にあたっています。

山本:なるほど。そのために特に心がけていることはありますでしょうか?

清水先生:エビデンスに基づく医学情報を踏まえた上で診療にあたるように心がけています。一般の方にとっては、医師はこれまでに培った経験や技能、プロフェッショナルな直感のみを活用して診療を行うイメージがあるかも知れません。しかし、医療は急速な進歩を遂げており、経験や直感のみに頼った診療では患者さんに不利益を与えてしまう可能性があります。そこで、医師は科学的な根拠のあるとされる医学情報をベースに、臨床医としての専門性(経験や技能)と患者の希望や価値観を組み合わせて診療にあたる必要があるのです。

臨床現場での医学情報の活用

山本:なるほど。医師がそういった医学情報をどのように活用しているか、よろしければ具体的なイメージを教えていただけますか?

清水先生:はい。まず、新たな医学情報は毎日のように生まれていますので、論文や医学書を読んだり、学会へ参加したりして日々キャッチアップし、臨床現場で素早く引き出せるように覚える必要があります。そして、実際の患者さんを診て疑問が生じた際には再び文献などを調べながら問題を解決していきます。特に、そういった医学情報の中でも各学会が発表している診療ガイドラインは臨床の本流をまとめたものであり、参照する機会も多いです。

山本:そういった論文やガイドラインの情報は、実際の患者さんに対してどのように活用されるのでしょうか?

清水先生:例えば、最もわかりやすい例で言えば疾患のリスクのスコアリングがあります。

山本:スコアリングですか?

清水先生:はい。症状や病歴、検査所見などを点数化し、「ある疾患のリスクがどれくらいあるのか?」を計算できるような方法が医学論文やガイドラインでいくつも提唱されています。

たとえば、胸が痛かったり呼吸が苦しかったりする患者さんを診たときに、肺に血栓が詰まっている疑いがあるとします。患者さんの中には、「できる検査を全てしてほしい」と思われる方もいらっしゃいます。勿論、安心したいという観点だけ見ると最もな意見なのですが、被曝や検査に使う薬剤の副作用などを考慮すると必要最低限の検査の方が良いケースもあり、我々医師はどちらの方が患者さんにとってベストか考える必要があります。

そこで、心拍数はいくつか、悪性腫瘍の治療中でないか等、患者さんの様々な症状や所見をスコア化して血栓が詰まっているリスクを見積もることができれば、検査を行うべきかどうかの判断材料の一つになります。

山本:なるほど。自分の経験や直感だけで血栓が詰まっているかどうかを判断しているわけではなく、そういった情報を判断材料に活用しているのですね。

清水先生:その通りです。疾患のリスクのスコアリングは一番わかりやすい例になりますが、それ以外にも検査結果が陽性であった場合その次にどんな介入をすべきか、緊急手術は必要なのか、入院させるべきなのか、薬は何をどれだけ投与すべきかなど、数多くの意思決定の判断材料としてエビデンスに基づく様々な医学情報を活用します。それらの判断材料に加え、自らの経験・技能や、患者さんの置かれている状況・価値観等を複合的に組み合わせることが重要なのです。

幅広い医学情報を活用する上での脳の限界

山本:1つの診療の中でも、たくさんの医学情報を判断材料として意思決定を重ねているということが分かりました。救急科医として幅広い患者さんを診るということもあり、数多くの情報源を活用する必要があると思うのですが、それらはどのように行っているのですか?

清水先生:日頃から、医学書やガイドライン、論文などの資料をデスクに置いて、いつでも情報に触れられるような状態にしています。

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医学書や論文などが散乱する医局内のデスク

こうした資料だけでなく、オンラインの論文データベースなども積極的に活用し、オンオフ問わず常に最新の医学情報に触れています。また、現場で一つ一つ全てを調べていては間に合わないので、なるべく日頃から頭の中にインプットするように心がけていました。

山本:なるほど...これだけ膨大な知識を頭の中に入れて、なおかつそれに加えて最新の医学情報にもキャッチアップし続けなければならないとなると、大変な苦労が伴うように思われます。

清水先生:そうですね。医学の進歩は目覚ましく、日々新しい研究の成果が発表されています。さらにテクノロジーの発展も相まって、医学情報は爆発的な増加を続けています。救急科医として各専門領域を幅広く見ないといけない、かつ情報をアップデートし続けないといけないという状況の中、「全ての医学情報を覚えきれない」という脳の限界を感じていました。

そのような背景もあり、医学情報を効率的に収集し、患者さんにより良い医療を施すためにも、できる限りデジタルデバイスを活用していきたいと考えていました。様々なITツールやアプリを使いながら、臨床でどう活かしていくのかを模索していました。

臨床現場でのデジタルデバイス活用

山本:デジタルデバイスを臨床現場で活用するというと、非医療従事者にとってイメージが湧きづらい部分もありますが、具体的にはどのように活用していたのですか?

清水先生:基本的にはEvernoteをハブとして、Google Driveと連携して複数のアプリを使っていました。Evernoteでメモを取りながら、一方では文献を管理するためにソフトを使い、他の医師に情報を共有する際にはSlackやTeamsを使ったり...とそのようなイメージです。

山本:用途に応じて様々なサービスを使うとなるとそれはそれで大変に思えますね。

清水先生:大変ですね。取り組み始めた頃は、一般大衆向けのアプリケーションしかなく、医師向けに特化して医学情報を一つの場所に集約できるものがありませんでした。そのような状況の中で、臨床現場でのデジタルデバイス活用をテーマに試行錯誤を繰り返していました。ある程度ノウハウが溜まり、臨床現場でのEvernote活用というテーマでメディアに連載を持つなど、デジタルデバイスの活用について啓蒙する立場になっていました。そんな中で出会ったのが臨床支援アプリのHOKUTOです。

HOKUTOとの出会い

山本:HOKUTOを初めて触った時の印象はどうでしたか?

清水先生:自分が複数のアプリを使いながら提案していた医学情報の収集と活用の効率化を一つの場所で実現できるアプリだと感じました。ノート機能をハブとして、臨床に必要な計算ツール、ガイドライン、抗菌薬情報、薬剤情報などが一つのUXに上手くまとまっていたのは驚きで、情報の横断的な参照にHOKUTOを頻繁に使っていたのを覚えています。

山本:ありがとうございます。HOKUTOを使ってから、臨床現場で医学情報を活用する体験はどのように変わりましたか?

清水先生:もともとは前述のようにEvernoteをハブとして色々な文献管理ツールを組み合わせて使っていたのですが、必要な情報がそういったツールの内外、オフライン・オンラインを問わずあちこちに分散してしまっていたため、探すのに時間がかかってしまっていました。HOKUTO内には必要な医学情報が集約されているので、求める情報に素早く辿り着けるようになり、患者さん一人一人に向き合う時間が増えたように思えます。

現役医師を続けながらHOKUTOにPMとしてジョイン

山本:開発する身としては、その言葉を聞けて嬉しい限りです。私たちとの直接の接点は、清水先生がホームページから問い合わせていただいたのがきっかけでしたね。

清水先生:そうですね。その頃は医業と並行して、医療系スタートアップで医師向けのキュレーションアプリのプロダクト開発などにも取り組んでいたので、HOKUTOはどんな会社が運営しているのだろう、と気になって問い合わせしました。その中で、山本さんをはじめ、代表の五十嵐さん、現役医師で取締役の山下さんと話すうちに、これは一緒にやりたいなと、何か手伝えることはないかな、となりましたね。

山本:あの一本の問い合わせをきっかけにPMとしてHOKUTOの開発にも携わっていただくことになりましたね。今後ともよろしくお願いします。

清水先生:はい、ぜひよろしくお願いします。


一緒に働く仲間を募集しています!

株式会社HOKUTOでは、「より良いアウトカムを求める世界の医療従事者のために」というビジョンに共感していただける仲間を募集しています。ご興味ある方は是非弊社採用ページをご覧ください。
採用ページ:https://corp.hokuto.app/recruit

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