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憧れの田舎暮らしに挫折した話

コロナ禍で、都会から田舎に移住しようとする人が増えている。

そして、中国のリー・ズーチーさんという方がYoutubeで配信されている、理想郷のような田舎生活の動画が大ブームだそうだ。凛とした女性がきれいな姿で汗水一つ流さず、手際よく淡々と作業をしている。虫も全くないし、近代文明を感じさせるものが一切映っていない。まさに、ユートピアな動画だが、田舎の農家暮らしとは、厳しい四季の移ろいを直に感じ寒ければ鼻水垂らし、花粉の季節も鼻水垂らし、暑ければ汗を垂らし、厳しい自然の中で野菜を全てダメにすることもある。農薬を使わないと身体にいいが、虫を一つ一つ捕らねばならず、でも、地道な素敵な、自分でモノを生産できる生活である。

現実を知らなければ、憧れが大きく夢になって、膨れ上がる。

私は、都会が全く合わず、ずっとずっとずーっと田舎に定住したくてたまらなかった。私は農業をする。そのため、雇われではなく私自身が売るほどある、というほどの野菜を自分の土地で作るのが現実はやや知ってるものの飛び込みたい夢だ。

ついに今年実行に移そうとしたが、高校時代の友達から、田舎への移住を断念せざるを得なかった話を聞き、急がずに時が熟すのを待つことにした。まだまだ、私は知らないことが多すぎた。その話を端的にして、そこから得た教訓について綴ろうと思う。(ここで記載していることは、全てではないし、また状況に応じても異なるので、必要に応じて弁護士等の法に詳しい方にきちんと相談されて下さい。)

高校卒業後、関東の大学に進学しそのままそこでバリバリのキャリアウーマンとして働いているが、優秀な彼女は手に職はいくらでもあり都会にも疲れてきたし、毎月支払う住居の賃貸料もばかにならず自分の資産をもちたくなった。そこで、X県に移住したいと、リフォーム済みの古民家物件を見つけた。リフォーム済みの古民家が、こんなに安く買えるのか、という価格だったという。

中古物件というのは、ボロボロだとものすごく安い。ただ、リフォームにものすごく金がかかる。

逆に新築物件だと、ものすごく高い。だが、今後数十年、過去に例のない災害が起きない限り安心感はある。

今年2月コロナが流行りだした頃、その超お得な物件を見つけたそうだ。人口密度の高い県に住んでいる人が、そのX県からだと通勤できると移住希望者が急増していたようで、彼女はなんだか慌てていたという。

しかも、その物件はすでにリフォーム済みで、直ちに住める、しかも割りに安いときていた。それから、仲介である不動産屋のしゃきしゃきした年配の女性と、頼り無さそうな年配男性のコンビがなんとも言えず親しみがわき、その物件のオーナーの女性については、明るく気さくな人で、そこは別荘として使っていて、地元の人もとても親しみやすく、女子会まで開いていたという話までしてくれた。オーナーは、そこをたいそう気に入っているが、家族の都合で手放すことにしたという。

不動産屋に連れられ、いざ室内に入ったらきれいにリフォームされており、調度品で飾り立てられていて、すぐに気に入ってしまったという。ただ、家の屋根の傷みが激しく、駐車場がなかったためそれを作る費用が気になったというが、不動産屋との話がトントン拍子に進んだ。リフォームまでその不動産屋でやれるというので、彼女が気になる箇所と、リフォームしたい箇所の見積りの金額次第で契約するということになり、仮押さえである予約金を支払ったそうだ。

ところが関東に住む彼女は、4月末頃不動産屋からすぐに契約に入りたいという連絡を受けた。聞けば、彼女が購入しようとしている物件のすぐ近くでリフォーム工事をしており、そのままそこの工事に移れば重機の搬入費が浮くという。そこで彼女は初めて、あれっと思ったという。重機の搬入の費用は業者の都合であって、何ら見積りに計上される費用には関係ないのではないかと。ただ、行って直接物件を見たり、話を聞こうにも5月の大型連休の前には全国的に移動を自粛するよう政府から要請が出ている。彼女は、リフォームは無理だと断った。そうすると、土地売買契約書と、重要事項説明書が送られてき、それにサインをして送り返すよう言われた。そして、契約日も彼女がX県にいるはずはない日付が記載されていた。通常だったら、そこで気付くはずだったというが、不動産屋に急かされ焦りがあった彼女はそのままサインをして、送り返してしまった。そして、手付金も振り込んだという。

その後、引っ掛かりを感じた彼女は土地売買契約書を読み込み、素人なりに勉強したという。そこで、民法改正により土地売買契約書が令和2年4月1日に改正(瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わった)になったが、現行のものに改訂されていないことに気付き、不動産屋に連絡すると、修正したものを送ってきた。通常契約を交わすのは、不動産屋の事務所で重要事項説明書に基づき宅地建物取引士より説明を受けた上で実施せねばならない。ましてや、リフォームの見積りも来ない。彼女は県をまたいでの移動自粛が解除される6月末に現地で契約を結ぶと伝えたそうだ。

さらにおかしいと追い討ちをかけたのが、不動産屋からリフォームの代金も分からないのに参考に送られてきた、リフォームの契約書だったという。リフォームをしないで中古物件を購入した場合、前のオーナーに契約不適合責任を追求できるのが、2ヶ月程度で、リフォームに着手した場合、その契約不適合責任が消滅する上に、リフォームの代金の支払いが終わらないと鍵を渡さないという。室内はリフォーム済みで、住めるはずなのに、物件が引き渡されないのは、どういうことかと不信に思ったという。

ちゃんとした物件かどうかきちんと判断せねばならぬ、と気付いた彼女はたまたま物件探しで何度かX県を訪れるうちに知り合った工務店の男性に連絡をとって、リフォームの金額を見てもらうことにした。

そして、6月末は契約ではなく、物件調査をさせて欲しいと不動産屋に伝えたところ罵られたが、うやむやにしてはならぬと、いざ現地に向かって1時間ほど調査を工務店の男性としたそうだ。

その結果、屋根は雨樋も含め全面改築が必要で、外壁は剥がれ、土壁がむき出しになっており、リフォーム済みである畳の下の床板にはびっしりとカビが生え、とどめは床下の柱が白蟻に食われていたという。居住するにあたり、通常の自然状況下で耐えうるよう緊急的にリフォームをせねばならない外部工事をする場合、道が狭く重機も入らなく、ほとんどが人力による作業になるため、廃材の処分費も合わせ1,000万円に上るという。そして、親切なことに、工務店の男性は、その土地は駅から近いものの大雪になった場合孤立する地区なので、別のところを探した方がいいとアドバイスしてくれて、彼女はすっきりとあきらめることができたそうだ。

その後、調査書を工務店の男性から頂いたが、全くその物件に思いのこもっていない、機械的に職人として撮影した写真に、さらに一気に目が覚めたという。そして、自分には感情ではなく、理性で淡々とモノはモノとして機能性を判断する力が欠けていたし、見てくれの良さやそこから並べられた嘘に気付かなかったという。

その後、サインした契約書は無効になっているため、手付金は返してもらわねばならないが、不動産屋がすんなり返すとは思えず、不動産売買契約中止証明書(契約が成立してない場合は、返金されるが念のため行った)というものを作り、内容証明郵便で中止と判断する理由も添えて送ったという。そして、何かあった際、相談する先の弁護士事務所も記載したという。その結果、無事に手付金は返済され、不動産屋との関係も切れたそうだ。

それは、人との出会いにも通ずるものがある。最初は好きという感情だけで突っ走って、あれっと思うことがあっても、見てみぬ振りをする。だが、いざ婚約だ、結婚だとかに至るまでにあれっと思うことこそ、自分にとって譲れない条件だったりするのだと思う。だから、あれっと思ったら、引き返すしかないんだな、と彼女が教えてくれた。(結婚するまでにあれっと思うことが全くなく、トントン拍子で結婚した人でもうまくいかなくなったと聞いたりもするが…。)

今回学んだこと。

1.無理に進まない。

2.全く関係のない第三者に見てもらう。

3.古民家はずっと継続して自身で修理できる百姓の方に適した住居である。よって、素人には扱える代物ではない。(修理費を継続して出せる金銭的な余裕がある場合を除く。)

4.建築も、DIY等できた方が良いし、法も知っていた方が良い。よって、世の中何でも知らないより知ってた方が良いし、できた方が良い。

5.色んな方法がある。だから、一つの方法に固執しない。

以上。

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