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36歳芸人のとりとめのない日常5。

こんばんは、紙を訪ねて三千里、トゥインクル・コーポレーション所属の単独屋、イラスト描き担当のウネモトモネで御座います。

10日目。

はい。前回の続きです。果たしてウネモトモネは愛した紙に逢うことが出来るのか。前回のあらすじはこちらの記事からご覧下さい。

11月3日。文化の日の朝。アルバイトに向かうアチャ(※飼っているワンちゃんの名前。ではなく同居している相方の芸名。)の生活音で目を覚ます。「ヤバい!二日連続で遅刻ギリギリ起きや!」と一瞬焦るも「いや、今日は祝日やからバイトないやん。」と一瞬で気付き、そのまま堂々と二度寝を決め込む。そしてしっかりと目を覚ましたのは午前10時過ぎ。

とりあえず洗濯機を回す。同居して9年。家事のほとんどは僕が担当している。本当に誇張無く9:1の割合で僕が家事をやっている。家事は割と好きだから別にいいっちゃいいんだけれど、たまには感謝の言葉くらい欲しいと想うのも事実。ね。そうだよね、世の中の家事担当の皆様。

少しボーッとしながらSNSとかを眺めていると洗濯機が止まる音がする。当然すぐさま干すのがベストなんだけれど、ここに来て突然眠気が襲ってくる。三度寝を決め込もうかと思ったのだけれど、さすがにそれは怠惰過ぎると自分を奮い立たせる。そして、ほんのちょっぴりだけウィスキーをストレートで飲む。いや、本当に舐めるくらいの量よ、勿論。

寝酒があるように起酒もあると僕は考えている。まぁ内臓にはえげつない負担がかかっているだろうけれど(※最近、テレビや街中で見掛ける『腎臓検診』の広告に凄く敏感になっています。)、たまにお酒を「ガソリン」って表現する人が居るみたいに、実際僕にとっては少し自分にエンジンをかける手助けになったりする時があるんだ。もちろんバイト前とかライブ前に飲んだりはしないけれどもね。

で、ウィスキーのおかげでちょっと体温も上がって。音が無いのも寂しいのでスマホから事務所の大先輩・エレ片さんのラジオ「エレ片のケツビ!」のPodcastを流して聴きながら洗濯物を干す。やっぱりエレ片さんのトークはめちゃくちゃ面白い。大学生の頃から聴いていた番組でたまに自分たちの名前が呼ばれることがいまだに新鮮に嬉しい。本当に奇妙な人生だよ。

洗濯物を干し終わったのが午前11時30分くらいだったろうか。そこから僕は何故かテンションが上がってしまい、突然アコースティックギターを持ってきて弾きながら歌を歌った。もちろん近所迷惑にならないよう小声でだけれど。銀杏BOYZの「少年少女」「いちごの唄」「BABY BABY」「銀河鉄道の夜」「東京」「惑星基地ベオウルフ」「夜王子と月の姫」、ゴイステの「童貞ソー・ヤング」、で自分たちの歌ネタの「CoCoCo告白Song」や「MELODY MART」。イルカアタックのタケイ君と作ったTTT(トライアングル・トリオ・スリー)のテーマ曲なんかを歌う。こうやって部屋の中でライブごっこみたいなのをしていると、広島の実家で過ごした高校時代の夜中を思い出す。その時はエアギターだったけれどもね。

気まぐれ弾き語りライブを終え、シャワーを浴び、身支度を調えた僕は、ポケットに角川ホラー文庫の江戸川乱歩先生のベストセレクション2巻を突っ込んで家を出た。目的地はそう、昨晩行きそびれてしまった新宿の画材屋「世界堂」。標的はもちろん愛用している「エトランジェ・ディ・コスタリカ A4サイズ 厚口用紙 アイボリー」だ。

電車に揺られながら江戸川乱歩先生の小説を読む。難しい漢字や知らない単語が頻繁に出てくるので、その都度スマホで調べながら読み進める。やっぱり奇妙でグロくて怖くて気持ち悪くて最高に面白い。

新宿に到着して歩きながら世界堂へ向かう。祝日ということもあって新宿の街には沢山の人が居た。まぁ祝日じゃなくっても新宿の街にはいつだって大勢の人が居るんだけれど。どっからどう見ても「人生勝ち組です!楽しい時間しかない!」って感じの人たちとすれ違いそうになる度に、僕は比喩表現ではなく実際に白目を剥いてしまう。これは自我が芽生えた16歳くらいからの癖。でもきっと僕の脳にそんな風に映っている人たちも色んな哀しみ憎しみ悩みを抱えて生きているんだろうな。白目剥いちゃってゴメンなさいね。

世界堂に到着。コピー用紙なんかが置いてあるフロアを隈無く探すと無事「エトランジェ・ディ・コスタリカ」の紙が置いてある棚を発見。しかし、そこにあったのは下北沢の三省堂と同じく「A4サイズ アイボリー」の「中厚口」。「厚口」はない。ちょっと横の方に「アイボリー 厚口」はあるけれどサイズが「B5」。僕の探し求めている「A4サイズ 厚口 アイボリー」は無い。絶望しながらも一応「中厚口」(※既に家に100枚セット×2がある。)を手に取る。そしてその周辺の他の紙も視て廻り、アイボリーではなく藤色だけれど厚口ではある紙をチョイス。その2種類を持ってお会計の列に並ぶ。

お会計時に店員の方に訊いてみた。

「すみません、これ(エトランジェ・ディ・コスタリカ A4 アイボリー 中厚口)の厚口って置いてないですよね?」

すると店員さんは申し訳なさそうな顔をして

「すみません、メーカーさんの方で廃番になっちゃったんですよ。」

と教えてくれた。ショックだった。薄々勘づいてはいたけれど、やはり廃番になっていたのか。でも、この店員さんが教えてくれなかったら僕はこの後も亡霊を追うように「エトランジェ・ディ・コスタリカ A4 アイボリー 厚口」を探し求めていたことだろう。教えて下さって本当にありがとう御座いました。

ショックを引きずったまま世界堂を出て、西武新宿駅に向かう僕。そう言えば今年はこんなことばかりだ。4月の単独の前にはユニクロでいつも買っていた黒いワイシャツが店頭販売中止になっていたことを知り、8月の単独の前にはいつも白塗り用のドーランを買っていた三善が閉店していたことを知り、今回の単独前にはお気に入りの紙の廃番を知る。「永遠なんて無い」って当然理解しているつもりだったけれど、改めてそんなことをしみじみと考えてしまった。

帰宅して少し遅めの昼食。この日もコンビニで買ったタンパク質の取れるロールサンド。録っていたドラマを視ながら食べる。そして食べ終わった後、ちょっとだけふて寝をする。横ではぼこくまが笑顔で僕を視ている。「お気に入りだった紙が廃番になっちゃった。」と伝えると「ぼこちゃんはどこにも行かんだで!」と言ってくれた。僕はぼこちゃんをギュッと抱き締めた。

ふて寝から目を覚まし、お絵描き作業に取り掛かる。コピックを何度か試し塗りした結果、やはり紙質と色合いがベストということで、重さと厚さには少々物足りなさを感じるけれど、エトランジェ・ディ・コスタリカのA4サイズ・アイボリーの中厚口を使うことにした。

『井000OFF』パーカー用の可愛いイラストが描けた。うん。ちょっと薄いのは気になるけれど、やっぱり風合いはこの紙色・紙質が一番。これからは君が新しい相棒だ。末永く宜しくね。

そんな2022年11月3日の36歳芸人のとりとめのない日常でした。