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太陽神殿へ|創世の竪琴・その59

「ここで龍玉を使うわけね!」
渚は目下に広がる大海原を見ていた。

見渡す限り海のその上空、リーの精霊魔法の力で一行は空に浮く魔方陣の上から眼下に広がる荒立つ海を見ていた。

陸地もなにもないのに、中央でぶつかり合う波頭は、その中心に何かると思わせてくれる。

「ああ、間違いない。水晶球はここを指している。」

シュメから預かってきた水晶球を見ながら、ファラシーナが言った。

「イル。」

「ああ。」

イルは箱から3つの龍玉を取り出すと手の平に乗せ、それを掲げた。

(龍玉よ・・・・・)

渚たちは祈った、龍玉を見つめながら太陽神殿の出現を。

しばらくするとイルの手の平の龍玉は、宙に浮き始めた。

完全にイルの手を離れると3つが円を描くように回りはじめ、その光は徐々に輝きを増してくる。

-カ・ー・ッ・!・-

辺りを裂くような光がそこから出、それまで穏やかだった海が荒れ始めた。

-ご・ご・ご・ご・ご・ぉ・ー・!・-

海が割れ、太陽神殿が建っている海底が隆起してきた。

「出たぞ!」

その造りはディーゼ神殿と同じ、ただ一つ、中央に高い塔がある事を除いて。

そして、元の状態に戻った龍玉はまるで、案内するかのように、その塔の最上階に下りて行く。

「リー、急いでくれ!」

「はい。」

一行は急降下すると、神殿の正面に立った。
海水が滴り落ちるそこは、潮の匂いで満ちていた。

「わあ!下から見ると高いのね!」

塔はまるで天に届かんとばかりに高くそびえ立っている。

入口である大扉には、やはりディーゼ神殿で見たのと同じ竪琴と剣の紋章が彫ってあった。

「こっちだ!」
扉を開けるとイルは何かに呼ばれているかのように走り続けた。
奥へ奥へと通路を走った。

「ここから先は私たちは入れません。」
奥の扉の前で、リーが精霊たちの声を聞いて言った。

「入れるのはイルと渚だけです。」

「それに、例え、行けてもそうはさせてくれないみたいだよ。」

ファラシーナの指し示す方向からは、金色の狼がゆっくりと近づいてきていた。

「ルーン?ううん、似てるけど銀色じゃない、あれは・・男神ラーゼスの守護獣?」

渚と目があったイルは、違いないと黙って頷いた。

「早く行きな!こいつはあたいたちで何とかするよ!」

「で・・でも・・・」

イルと渚は足が進まなかった。
ファラシーナとリーだけ残しておけれないと思っていた。

「私たちを見くびらないで下さい。」
リーがファラシーナと共にイルと渚の前に、背を向けて立った。

「私たちなら大丈夫です。
あなたたちには、するべき事があるはずです。」

「全く!早く行きなよっ!」

黄金の狼はこっちに向かって突進し始めていた。
ファラシーナはダガーを構え、リーは呪文を唱え始める。

イルと渚はお互いの決心を確かめ逢うかのように目を会わせると扉を開け、中に駆け込んだ。

「頑張ってね!」

「また後でな!」

「あんたたちも、がんばりな!」
中に入り、扉を閉めると同時にリーの呪文を放つ声が聞こえた。

「『水撃破!』」

そして、イルと渚は塔の螺旋階段を上がって行った。

その階段を駆け上がりながら、渚は考えていた。もし、これで終われば、私は家に帰れるのだろうか。

でもそうなったら、イルとは、もう二度と会えないのだろうか。

(とにかく、今は男神ラーゼスに会って分かってもらわなくちゃ。
そんな事考えてる場合じゃないんだ!)

渚は、イルとの別れを思うと気弱になる自分を叱咤し、走り続けた。

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