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決別の予感|創世の竪琴・その61

「ファラシーナ、リー!」

塔から下りると、扉の外で倒れていたファラシーナにイルが、リーに渚が駆け寄った。

「酷い怪我・・・でも息はしてる!」

「こっちもだ!」
渚は竪琴を取り出すと、回復の音を奏でた。

「ああ・・渚、大丈夫だったのですね。」

「ん。リーもね。」

気がついたリーは、渚を見て微笑んだ。
もっとも、相変わらずフードをかぶっているので、渚からは口元しか見えない。

「ん?・・あ、あたい・・?やられて・・・イルっ!」

ファラシーナは気づくと同時に抱き起こしていたイルの首に巻きついた。

「フ、ファラシーナ!」
驚いたイルが、ファラシーナの腕を解こうと焦る。

「もうっ!リー、先に行きましょ!」

見慣れた光景だが、やはり面白くない渚は、リーを促すとさっさと歩き始めた。

「渚っ!待てよ!」
イルが慌てて立ち上がり、尚も絡みついているファラシーナと一緒に追いかけてきた。

「いいわね、もてて・・・。」

渚はちらっとそんなイルを見るとそっぽを向きひたすら神殿の出口へと歩いていた。

「再び海底に沈むようですね。」
神殿を出ると、リーが辺りを見渡しながら言った。

「急ぎ、ここを離れた方がいいようです。」
リーが魔方陣を描き始める。

渚は後ろを振り返り、ため息をつくとまだ出て来ないイルとファラシーナを呼ぶ。
「イル、ファラシーナ、帰るわよ!」

一行が空に上がるとほぼ同時、地響きがし、海原がざわめき、神殿は再び海底へと、その姿を消していった。

「ふう・・・」
渚は神殿の沈んでいった後の渦潮を見ながら、溜息を付いた。

「さあて、まだまだやる事は一杯あるわ!」

「一端、お頭たちの所に戻りますか?」

「ん、そうね。リー、お願いね。」

ザキムたちと再会し、その夜はそこで泊まる事にした。

ファラシーナとリーに塔での一件を話し、今までの礼を言い、後は自分たち2人でやるからというイルと渚に、2人は断固最後まで付いて行くと主張した。

無の世界はこれ以上広がらないにしても、魔物たちは相変わらず地上を徘徊している。

それに2人が竪琴を使っている間は、完全に無防備状態となるだろうから、その時の守り手として、どうあっても付いて行くという事だった。

「じゃ、引き続き、よろしくお願いします。」
根負けした渚は、2人に頭を下げた。

「水臭いですよ、渚。」

「そうだよ。それにあたいは、イルと離れたくないからなんだし・・・ネ。」

ファラシーナはイルにウインクして言った。

「だ、だから、本当はファラシーナは・・」

「えっ?何か言ったかい?」

小声で言ったのが聞こえたのか、ファラシーナが渚の方を向いた。
渚は慌てて打ち消した。

「う・・ううん、別に。」

(あーあ、またイルと2人っきりで旅ができると思ったのに。
でも、2人の言うことも当然だし。仕方ないわ。
・・とにかく、もうじき終わり。
そうすれば、またこの竪琴が光って家に帰れるのかしら?
それとも、ディーゼ神殿へ行って、これを返すと女神様が帰してくれるの?)

渚はいろいろ考え込んでいた。
そして、ふと思いつき、どきっとした、イルの言った言葉を。

(確か、イルは、イヤリングが黒い限り、私には触れないって言ったよね・・とすると、もしかすると・・あ、危ない?・・・でも、イルなら・・・う、ううん、駄目、駄目!)

「駄目だってばっ!」

「何が駄目だんだ?」

思わず声を出してしまった渚を、不思議なそうな顔をしてイルが見る。

「な・・何でもない。」

「何でもないって・・
渚?お前熱でもあるんじゃないのか?顔が真っ赤だぞ。」

「大丈夫だってば。」
渚の額に手を充てようとするイルの手を振り払うと渚は立ち上がった。

「もう遅いから、私、休むわ。お休みなさい。」

そそくさとその場を離れ、渚とファラシーナの為に用意してくれた小屋に行き、1人ベッドに入る。

自分の考えた事が恥ずかしくて、イルと目が合わせられなかった。

(ファラシーナがいるから・・・大丈夫よね・・2人っきりにはさせてくれないだろうから・・それに・・それに、全部終わったら私は家に帰るんだし・・そうすれば、もうイルとは会えないんだし・・・もう・・・・)

いつの間にか渚の目には涙が溜まっていた。
渚は布団を頭までたくし上げると、堪え泣きしていた。

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