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男と女|国興しラブロマンス・銀の鷹その36

セクァヌの困惑顔など我関せずで馬を進めるシャムフェスは、前方に道を遮るようにして止まっている馬車に気づくと馬の速度をゆるめる。

「どうやら待ち人のようです。」

「え?」
道の先に馬車が一台止まっていた。

近づいていくと馬車の横にベールをかぶった女らしい人影がる。

「シャムフェス様・・・」
小さく震えるような声が聞こえた。

「エレーリア嬢?」
シャムフェスが彼女の前で馬を止める。

「あの・・・・シャムフェス様・・あの・・・・」

消えうせてしまうような声で言うその女性は、背格好からセクァヌと同じくらいと思えた。
薄絹のベールから透けて見える涙で潤んだ瞳は熱っぽさをもっていた。

「今日はせっかくご招待されてましたのに、申し訳ございませんでした。」

「あ、いえ、姫様のご用事ですもの、しかたございませんわ。」

その会話で、セクァヌは今日約束があったのに、それを断って迎えにきてくれたのを知る。

「で、どうかなさったのですか?このような夜更けに?」

「あ、あの、シャムフェス様・・・わ、わたくし・・ご迷惑なのは・・・わかっております。」

ちらっとセクァヌを見てから、彼女はその熱を帯びていた瞳でシャムフェスを見つめて続ける。

「でも・・でも、・・・明日ここをお発ちだとお聞きして・・・わたくし・・・・わたくし・・・・・」

「エレーリア嬢。」

「お願いです、・・わたくし・・・・わたくし・・今宵だけでも・・・」

全身を震わせて、勇気を出して言う彼女の瞳は、決意に燃えていた。
一夜だけでも思い出がほしい、とエレーリアの瞳は語っていた。

その彼女にやさしい笑みを投げかけ、シャムフェスはすっと手を差し伸べる。

「シャムフェス様・・。」

沈んでいた表情がぱっと輝く。
差し出されたエレーリアの手をそっと握り、シャムフェスはやさしく彼女を馬の上へ抱き上げる。

「シャムフェス様・・・・」

エレーリアはためらいがちではあったが、嬉しそうにシャムフェスの胸に身体を寄せた。
そして、シャムフェスはそんなエレーリアをやさしく片腕で包み込む。

「というわけで、姫、申し訳ございませんが、野営地ももうすぐその先ですので。」

「あ、はい。私でしたら大丈夫です。」

呆気にとられて2人を見ていたセクァヌは、はっとして答える。

「それでは、失礼致します。」

エレーリアを抱き、シャムフェスは野営地とは反対の方向へ馬を駆っていった。馬車がその後を追っていく。

「・・・・つまり・・それって・・・・・」
考えてまたしても赤くなるセクァヌ。


「・・・・いいのかしら、シャムフェスったら・・・。」

そんなことを考えながらセクァヌはゆっくりとイタカを駆っていた。
そして、シャムフェスの言葉と今のエレーリアの行動に、セクァヌは、無意識に彼女と自分の姿を重ねていた。

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「アレク・・」
(私がアレクシード様っていうのもおかしいわよね?)

「お嬢ちゃん。」

「アレク・・私、私・・・・・」

(ご迷惑・・・というのはおかしいわよね。・・・どっちかというと待っててくれてるのよね、アレクは。)

セクァヌの熱いまなざしを受けて、アレクシードの瞳も熱を帯びてくる。

(これは・・・・ならない方がおかしい・・のよね?)

「お嬢ちゃん・・・」
そのたくましい腕でぐっとセクァヌを抱き寄せる。そして・・・
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「だめーーーー!・・わ、私にはできないわっ!そんなこと!」

思わず彼女は心の中で叫んでいた。

そして、ぶんぶん!と頭を振る。
(そんな恥ずかしいことできっこないわ!)

などということを考えているうちに野営地が見えてくる。

「・・・・やっぱり・・・・」
その入口で、アレクシードが仁王立ちしていた。

「ど、どうしよう・・・・かなり怒ってるような気が・・・?」

確かに怒っているようにも感じれらた。が、それよりも悲哀感の方をアレクシードから感じた。

「ア、アレク・・・・」

シャムフェスの言った事はやはりできそうもない。
これはもう思いっきり怒られるしか手はないと思っていたセクァヌの予想に反してアレクシードは静かに口を開いた。

「お嬢ちゃん、シャムフェスはどうしたんだ?迎えに行ったんじゃなかったのか?」

「あ?え?ええ、・・・来てくれたことは来てくれたんだけど、この先で女の人が待っていて・・・・」

「またか・・・ったく、あいつは・・・。で?お嬢ちゃんを一人にして行ってしまったというのか?」

「ええ、もう近いからいいだろうって。」

「まったく・・・・」

ぼりぼりと頭をかいてアレクシードはくるっと向きを変える。
まるでセクァヌなどどうでもいいというように。

「アレク?」

「ああ、もういいから、休むんだな。疲れただろう?」

「ううん。くつろがせてもらったから疲れてないわ。」

「そうか。ならいい。」

すたすたと歩いていくアレクシードに、セクァヌはどうしたのかとイタカを彼の前に駆け寄らせる。

「アレク?」

セクァヌの視線を受けてアレクシードはちらっと彼女を見つめ、そして、視線を逸らすとため息をつく。

「アレク、どうかしたの?」

それでも何も答えないアレクシードに、セクァヌはイタカから下りて、彼の前に立ち、じっと目を見つめる。

「今日のアレク、へんよ?」

「いいから、テントへ入って寝てくれ。」

しばらくじっと見つめあっていた後、アレクシードがようやく口を開いた。

「どうして?」

「どうしてって・・・・オレに言わせる気か?」

「え?」

『何を?』と聞こうとしてセクァヌはアレクシードの瞳がせつなささを帯びていることに気づき、どきりとする。


確かにアレクシードは怒っていた。
顔をみるなり怒鳴ってやろうと思っていた。

が、それとは反対に、最近一人ででかけるセクァヌに不安を覚えていた。
もしかしたら・・・オレは邪魔なのではないだろうか、と。

そして、帰ってきたときのセクァヌのドレス姿に胸を熱くし、危機感を覚えての行動だった。

またセクァヌの気持ちなど構わず手をだしてしまいそうで、アレクシードは自分が恐かった。
セクァヌにこれ以上避けられるようになるのが恐かった。

それを避けるため、話をシャムフェスのことに持っていったり、なるべくセクァヌを見ないようにしたのだが・・・・。

目の前には覗き込むようにして彼を見つめているセクァヌがいる。

「お嬢ちゃん・・オレは・・・、オレはもう傍にいなくていいのか?」

そんなことを言うつもりはなかった。
が、思わずアレクシードの口から出ていた言葉はそれだった。

「ア・・レク・・・・」

その言葉はセクァヌの心を貫いていた。
怒られるより何よりも彼女の心に突き刺さった。

『最近避けられているようだ、と嘆いていた』と言ったシャムフェスの言葉を思い出す。

「アレク、私・・・」

「ああ、いい。忘れてくれ。今日のオレはおかしいんだ。また・・・明日な。」

「アレク・・・・・」

寂しそうな後姿を見せ、アレクシードはセクァヌの前から立ち去っていった。


(なぜ、私は追いかけなかったのかしら?)
テントに戻ったセクァヌは自分にそう聞いていた。

(そんなに恐いの?アレクが?・・・自分でお嫁さんになるとか言ったくせに?)

そして、ふと浮かんだエレーリアの姿。震えながらも自分の決心を貫き通した彼女がなぜかとてもうらやましく思えた。

(私は・・・)
アレクシードに甘えてばかりで、彼のために何かした覚えがない、とセクァヌは気づく。

アレクシードを避けていたつもりなど全くなかった。
アレクシードがそばにいない自分は考えられなかった。

ただ、なんとなく、一人でふらりと出かけることが多くなっていた事は確かだった。

そういえば、初めて会った頃からアレクシードと心に決めていた。

でも、なぜなのか?とセクァヌはふと思う。

話に聞いた一目惚れという感覚はなかったように思えた。

胸を焦がす熱い想い、全てを捨ててでもその人と共にいたい、そんな気持ちではないようにも思えた。
あまりにも純粋にすんなりとアレクシードを心に受け入れていた。

そしていつの間にかアレクシードが傍にいるのは当たり前で、気にも留めなくなっていたのかもしれなかった。

「私は・・・・本当はどうなのかしら?」

確かにアレクシードの事は好きだと思う。
が・・・・

「アレク・・・・」

いつの間にか涙が頬を伝っていた。
このままアレクシードと気まずいままになってしまったら・・・?

あれこれ考えながら、セクァヌはいつのまにか眠りの中へ入っていた。


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