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死の淵での祈り|国興しラブロマンス・銀の鷹その40

バタバタバタと医師が薬師がそして兵士が陣営内を走り回る。

「出血が酷すぎる・・・」

必死の治療が始まった。

「薬草が足らない!持っているものから集めるんだ!近くには生えていそうなところはないか?お湯を早く!・・・・・・・・」

「敵には決して悟られるな!姫は必ず助かる!」

勝ち戦のはずのその日、いつもなら賑やかに過ごす夜だが、どの兵士も沈んでいた。

が、深手を負いつつそれでも戦場を離れなかった姫に誰しも感動していた。

もし、仮に今敵兵が乗り込んできても、彼らを絶対皆殺しにし、姫は必ず守り抜く!誰しもそう心に誓っていた。


3日3晩寝ずの看病が続いていた。
傷をふさぎ終わり、弱々しくはあったが一応心臓は動いていた。

が、高熱が続き意識がまだ戻らない。
死人のような顔で横たわったままぴくりともしない。

「アレク、少し休んだらどうだ?」

セクァヌのベッドの横で座っているアレクシードにシャムフェスが声をかける。

「いや・・」

「せめて水でも浴びて着替えてきたらどうだ?」

アレクシードは血のりがついた甲冑こそ脱いでいたが、戦場から戻ったままの格好だった。1歩もそこを離れようとしない。

「いいから、水くらい浴びてこい。姫が目覚めたときそんな臭いと嫌われるぞ?」

「目覚めるだろうか?」

「何言ってるんだ、アレク!そんなの決まってるだろ?!ほら、オレが看ててやるから!」

「しかし・・」

「なんだ、オレはそんなに信用ないのか?」

「いや、そうじゃないが・・。」

弱々しく頭を振るアレクシードに、シャムフェスは諦めて横に座った。


「う・・ん・・・」

「お嬢ちゃん?」

5日目の朝、セクァヌのうめき声に、ついうとうとしていたアレクシードははっとして目を見張る。

「アレク・・・・どこ?・・・アレク・・・置いてっちゃいや・・・・・」

「ここだ、オレはここにいる!」

気がついたのではなかった。
熱にうなされてうわごとを言うセクァヌの手をアレクシードはぐっと握り締め、見つめつづけていた。

そして、6日目の朝、セクァヌは痛みの中で目を開けた。

「あ・・私・・・・・確か戦場で・・・・・・・・。」

ふと自分の手に温かいものを感じて横を見る。
そこにはセクァヌの手をぐっと握り締めたままベッドに頭をつけて寝てしまってるアレクシードがいた。

「アレク・・・・・」

「ん?」

「アレク。」

「お嬢ちゃん!」

セクァヌの声で顔を上げたアレクシードは、弱々しかったが、陽の光を弾き金色に輝くセクァヌの瞳を見た。

「・・・アレク、くさい。」

「う・・・・・」

顔をしかめたセクァヌにアレクシードはぎくっとする。

「ありがとう、アレク。」

ずっとついていてくれたのだとセクァヌはすぐわかっていた。
高熱にうなされながらも、アレクシードの温かい手を感じていた。


「だからオレが言っただろ?水ぐらい浴びて着替えろって!」

ははは、ふふふ、とテント内に笑い声が響いていた。

まだ横たわったままのセクァヌとアレクシードとシャムフェス。

セクァヌを失ってしまうかもしれないという悪夢から開放され、ようやく笑いが戻っていた。

「どうした、お嬢ちゃん?」

そんな明るい空気の中、ふと沈んだ表情をしたセクァヌに、アレクシードは心配する。

「・・・熱にうなされていたとき、私、夢を見たの。」

「夢・・か、どんな夢だったんだ?」

思い出すように言うセクァヌに、アレクシードは聞く。

「はっきりとは覚えてないんだけど・・・だけど・・・・」

「なんだ、どうした?」

アレクシードは微笑みながらセクァヌの顔を覗き込む。

「アレクが私を置いてどこかへ行ってしまうの。・・・私が必死になって呼んでるのに、叫んでるのに、どんどんどんどん、遠くに・・・振り向いてもくれず、小さくなっていくの。追いかけようとしても動けなくて・・・悲しくて・・・涙が止まらなかった・・・」

夢を思い出したのか、今にも涙がにじんできそうな瞳でアレクシードを見つめる。

「オレが?」
こくんとセクァヌは頷く。

「オレがお嬢ちゃんを置いてどこへ行くっていうんだ?」

「分からないけど・・・・」

「う~~ん、それはたぶん・・・オレの思いが移ったんだろ?」

「アレクの思い?」

「そうだ。お嬢ちゃんがなかなか気づかないから、ひょとしたらひょっとしてこのまま?と思ったら気が気じゃなかったからな。」

「・・・そうなのかしら?」

「姫、この男が姫を置いてどこへ行くというんです?まー、私としては、そうしてくれれば、今度こそ姫に名乗りをあげたいと思いますが?」

「なに?」
その言葉に、アレクシードは反射的にシャムフェスを睨む。

「行かないなら、いいじゃないか?」

「そ、それはそうだが・・。」

からかうような視線のシャムフェスに、アレクシードは頭をかいて照れていた。


そして、陣営にも笑いが戻った。

少しずつ回復し、陣営内を歩くセクァヌと彼女を気遣いやさしく手を貸すアレクシードに、兵士らは心を温かくさせて見つめていた。

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