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時を超えた初恋|国興しラブロマンス・銀の鷹その38

-チュンチュン-

夜が明けていた。セクァヌはゆっくりと目覚める。

「・・・アレク・・・・・」

そして、今し方見た夢を思い起こす。
まるで実際にあったことのようにはっきりと覚えていた。

「アレク・・・」

たまらなくなったセクァヌはがばっと起きて、テントを飛び出す。

そこにはすでに起きていたらしいアレクシードの姿があった。

「アレク!」

「お嬢ちゃん?」

その姿を見つけると同時に叫んでその首に抱きついたセクァヌに、アレクシードは驚く。

「アレク・・・・・・アレク、アレク・・」

「な、なんだ、どうしたんだ、一体?」

若いアレクシードも好きだった。
が、今のアレクシードだからもっと好きなのだ、とセクァヌは感じていた。

誰よりも何よりもアレクシードが大切で、自分にとってはなくてはならない人。自分よりもかけがえのない人。

「お嬢ちゃん?」

「アレク、愛してるわ。」

「お嬢・・・・・」

朝の食事の支度と移動の為の支度で、周りは急がしそうに動き回る兵士で一杯だった。
その中で飛びつかれ、そして言われたその言葉に、アレクシードは思いっきり照れ、焦りを感じる。
が、ほっとした自分と喜んでいる自分もいる、と感じてもいた。

「お嬢ちゃん・・・オレも・・愛してる。」

なぜだかそう言わなくてはならないと感じたアレクシードは、セクァヌをしっかりと抱き留めると、兵士の中であるのもかまわず、はっきりと口にした。

初めて口にするその言葉を。


「あのね、アレク・・」

「なんだ?」

「私、夢を見たの。」

「夢を?」

「そう。アレクの夢。」

「オレの?」

「そうよ。聞きたい?」

「ああ、勿論。」

「ふふっ、あのね・・・・」

移動の途中の休憩、アレクシードの横に座ったセクァヌは、嬉しそうに話し始めた。



「ちょっと待てよ、確かそんな記憶が・・・・」

アレクシードは、話の途中で、記憶の底に埋もれてしまったらしいそのことを考える。

「そうだ・・・ルマイスでだった。」

「え?・・・じゃー、本当に単なる夢じゃなくて・・・私、ホントに過去へ行ったの?・・・若い頃のアレクに会ってきたの?」

「らしいな。」

驚いて目を丸くして見つめるセクァヌにアレクシードは頷きながら微笑む。

記憶が蘇ってきていた。
アレクシードの中で埋もれてしまった、いや、無理やり埋めてしまった記憶が。

「そうか・・・あれは・・お嬢ちゃんだったのか・・・・そういえば、そうだ。・・・」

アレクシードはその少女の面影を思い出しながら、まじまじとセクァヌを見つめていた。

少女がいなくなってしまった後、泣きたくなるほどの切ない想いをかかえて丘を、そして町じゅうを探した。

そして、夢だと諦め、無理やり記憶の奥底へ押しやった熱い想い。
アレクシードの初恋。

それは、セクァヌにとっても初恋と言えるかもしれなかった。
初めて知った胸のときめき。
どうしようもないほどアレクシードが愛しく感じられた。


「・・・それで眠いのね・・・私、寝てたんじゃないのね・・だから、こんなに・・眠・・い・・・・・」

「お嬢ちゃん?」

ことん!とアレクシードの肩に頭をのせ、セクァヌは眠ってしまった。

「お嬢ちゃん?・・・おい、こんなとこで寝るんじゃない。・・お嬢ちゃん?!」

完全にセクァヌは眠ってしまっていた。
しかも、アレクシードが起こそうと身体を動かしたせいで、ちょうど胸の中にすっぽり入った格好になってしまう。

「お嬢ちゃん・・・・」

全くの無防備ですやすやと寝息をたてているセクァヌは、なまめかしいほど愛らしかった。

「お、お嬢ちゃん・・・こ、こら・・起きないか!?・・狼の腕の中で寝るんじゃない!・・おい、お嬢ちゃん!・・・襲ってしまうぞ?!」


「は~~~・・」
大きなため息をつく。

「・・・オレにどうしろってんだ?」

いくら揺すっても声をかけても起きる気配はなかった。

心地よい眠りの中に入ったセクァヌにとっては、アレクシードの声はなんとも気持ちのいい子守唄のように聞こえ、そして、その体温は、安らぎを感じさせてくれていた。

アレクシードの腕の中ほど安らげるところはない。

アレクシードは、そんなセクァヌの寝顔を見つめながら、遠い昔のことに、その時のことに想いをはせていた。
初恋のそのときの胸のときめきを再び感じながら。

少女と歩いた丘、町までの小道。

こんなとき、シャムフェスなら何を言うんだろう?どうするんだろう?と慣れない事に戸惑いながら、それでもふと見ると横の少女は自分を見て微笑んでいる。

そんな少女と目を合わせるたび、心臓が高鳴った。
思わずなんでもないことを口走る。

そんなアレクシードに少女は微笑みながら答える。
たまらなく嬉しく、そして不安でもあった。

気の利いたことも話せない自分にそのうち呆れてどこかへ行ってしまわないだろうか?と心配しつつ歩いていた。

そしてようやく町につき、これでなんとか場をもたせることができるかな?と思いさっそく店に連れて行って、飲み物を頼む。

(そうだ。同じスパルキア人だとわかって、すごく嬉しく感じたんだ。そして、いろいろ話した。祭りのことや野山のことを。)

『なれるわ、きっと。アレクシードなら絶対に!』

セクァヌの言葉が、つい昨日のことのように蘇る。
そして、自分が言った言葉も。

『君のようなかわいい子を守る為に大陸一の剣士になるってのもありだな?』


「お嬢ちゃん・・・オレは、2つも夢を叶えたということになるんだな。」

3つ目は叶うんだろうか、と思いつつ、アレクシードは無意識に寝息をたてているセクァヌの唇に、自分のそれを近づけていた。


「アレク、そろそろ出・・」

突然のシャムフェスの声にぎくっとして、今少しでセクァヌの唇に触れるところで顔を上げたアレクシードは、シャムフェスと目があう。

「発・・・・・い、いや、悪かったな。もう少し休んでからにするとしよう。」

それに気づいたシャムフェスは、そう付け加えて、慌ててその場を去っていく。

「ふ~~~~・・・・・・・」

気をそがれてしまった、とアレクシードは苦笑いしてセクァヌを見つめる。

「・・ア・・レク・・・」

「ん?・・・寝言・・か。・・・お嬢ちゃん、あの時の続きの夢でも見ているのか?」

そして、ふと思う。

「もし、今のオレでなく、若いオレの方が好きだなんて言われたら・・・オレはどうすりゃいいんだ?」

目を輝かせて嬉しそうに若い時のアレクシードの話を聞いていたセクァヌのその時の様子が目に浮かぶ。

思わずアレクシードは昔の自分に嫉妬を感じていた。

「頼むからお嬢ちゃん・・そんなことは言わないでくれよ?」

腕の中で、幸せそうに微笑みながら眠っているセクァヌを見つめ、アレクシードは、心の底から幸せを味わっていた。

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