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堪忍袋の?|国興しラブロマンス・銀の鷹その59

 「なんだ、そりゃ?」

「「なんだ」・・って・・・だから夢だって言ったでしょ?」

民の代表者が一同に集まり、新しい国の船出を祝う祝賀会も終わったその夜、セクァヌを屋敷まで送り届け、帰る前にと進められたハーブティーを飲みながら、セクァヌが少し話しにくそうにアレクシードに話した夢の話。

じっと黙って最後まで聞いていたアレクシードは、明らかに怒った表情で、セクァヌを見つめていた。

「それは別に構わん。」

「じゃー、なぜそんな顔をしてるの?」

セクァヌの質問に、アレクシードはしばらく黙っていた。

「ねー、アレク・・・?」

「・・・とすると・・何か?」

「え?」

険しい顔のまま沈黙が続き、困っていたセクァヌは、ようやく口を開いたアレクシードにほっとしたものの、まだいつもの彼ではないことに戸惑っていた。

「もしも今日、夢の時のように襲撃があったら・・・お嬢ちゃんはオレをかばって死ぬつもりだったのか?」

「あ・・・・・・・」

ようやくアレクシードの怒りの意味がわかり、セクァヌは動揺する。
自分でもはっきりとそれは意識していなかったが、もし、仮に今日、矢が飛んできたら・・・おそらく自分をかばって飛び出すアレクシードより前に、矢の前に飛び出すだろうと自問自答したセクァヌは確信する。

「今まで黙っていたのが何よりの証拠だ。そうだろ?」

「アレク・・・」

がしっと同じソファのすぐ隣に座っているセクァヌの両肩を掴み、アレクシードは怒鳴ってしまいそうな自分を押さえて続ける。

「オレに・・・オレに、お嬢ちゃんを失うというこれ以上ない絶望を味あわせたかったのか?」

「アレク・・・でも・・私だって・・・・」

夢の中のその場面を思い出したのか、セクァヌの瞳に涙がにじみ始める。
ともすると涙が出そうなその話を、必死で涙を堪えて、極力おもしろ可笑しく話したつもりだったセクァヌの我慢が切れた。

「お嬢ちゃん。」

セクァヌを引き寄せるとアレクシードはぐっと彼女を抱きしめる。

「今日に限って剣を携え、防具をつけろなんて言うからおかしいと思ったんだ。儀式だからこの方が立派にみえるとかなんとか嘘までついて。」

「アレク・・・」

「お嬢ちゃんは・・・一人で不安を背負ってたんだな・・。」

セクァヌの気持ちを考えると怒鳴れなかった。

「アレク・・・・」

「が・・・気に入らん!」

「え?」

ぐっと抱きしめていたセクァヌをついっと胸から離してきつい視線で自分を見るアレクシードに、彼女はぎくっとする。

「オレに話してくれてもいいだろう?」

「で、でも・・」

「「でも」じゃーないっ!夢を見たなら話してくれればそれなりの対処はできるというものだ。これは明らかにお嬢ちゃんの独りよがりだぞ?」

怒るべきではない、と思いつつ、アレクシードの口調は自然と荒くなって来ていた。

「ご、ごめんなさい。」

それもそうだ、とセクァヌはしゅんとして謝る。

「だいたいだなー・・・オレがお嬢ちゃんを置いて死ぬ?・・オレがどれほどお嬢ちゃんといっしょになれる日を待っているか知ってるか?」

「ア、アレク・・・・」

「さんざん待ったあげく、その前に死ぬなんて・・・・じゃない・・・・ともかくオレがお嬢ちゃんを悲しませるなんてことするわけないだろ?」
つい本心を言ってしまい、慌てたようにもっともな理由を付け加えたアレクシードに、セクァヌは涙を溜めたままくすくすと笑う。

「な、何がおかしい?」

「あ・・・ごめんなさい。」

じろっと睨んだアレクシードに、セクァヌは笑いを噛み堪えて謝る。

「それにだぞ?・・・・確かに奴がお嬢ちゃんに気があることは知ってるが・・・」

「シャムフェスのこと?」

「ああ、そうだ。本当に本気なら親友のオレであろうとなんだろうと、かっさらっていけばいいんだ!」

「いいの?」

「・・・・」

しばらくアレクシードはセクァヌを見つめたままセクァヌのその反応に呆気にとられていた。

「い、いいのって・・・・お嬢ちゃん・・・・・」

「はい?」

そして、気を取り直して半ば怒鳴るようにアレクシードは口にする。

「いいわけないだろぉ?!」

「そうよね?」

「当たり前だっ!」

「きゃっ!」

ぐいっとセクァヌの腕を引っ張ってアレクシードはセクァヌを自分の膝の上に座らせ抱きかかえる。

「もう!びっくりするじゃない?!」

「この気まぐれな意地悪妖精が!」

「ご、ごめんなさい・・・・。」

じっと睨んでいるアレクシードの視線にセクァヌは茶化した自分を反省してうつむく。

「だいたいだな・・・夢っていうやつは、見ている本人の考えが結構反映されるんだぞ?・・・お嬢ちゃんは、そんな事考えてたのか?」

「ま、まさか・・・普通の夢と違うのよ。これは・・・そ、そう・・・遠見の力が見させてくれたのよ。私が見たいと思った訳じゃ・・・」

すっかりセクァヌは萎縮していた。

「まったく、そんなことがあってたまるか!自分が言ったバカな約束をバカ正直に守って、想いを遂げるその前に死んでしまうだなんて・・・他の男にむざむざ渡してしまうだなんて、オ、オレは・・・・」

「ア、アレク・・・目、目が据わってるわよ?」

「お嬢ちゃん・・・」

「は、はい?」

目は据わったままのように思えたが、急に真剣な面もちで自分を呼んだアレクシードにセクァヌはすっかり飲み込まれ、じっと彼を見つめる。

しばらくそんなセクァヌを見つめていた後、アレクシードは頬に充てられていたセクァヌの手をぐっと片手で握り、そっと彼女を支えていたもう片方の腕に力を込めて腰を抱く。

「・・・約束など・・くそくらえだ!」

「・・え?・・アレク?・・・・・」


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