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「大学のハラスメント相談室―ハラスメントと向き合うすべての人へ」まえがき公開

2023年3月刊『大学のハラスメント相談室―ハラスメントと向き合うすべての人へ』(櫻井義秀・上田絵理・木村純一・佐藤直弘・柿﨑真実子著、四六版・並製、208ページ、978-4-8329-3418-4、2,640円[本体価格2,400円+税])のまえがき「アカデミック・ハラスメントの予防・相談・調整――ハラスメント相談室を利活用するために」を全文公開します。

大学のハラスメント相談室書影

『大学のハラスメント相談室―ハラスメントと向き合うすべての人へ』
櫻井義秀・上田絵理・木村純一・佐藤直弘・柿﨑真実子著
四六版・並製、208ページ、978-4-8329-3418-4、2,640円(本体価格2,400円+税)
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ま え が き
アカデミック・ハラスメントの予防・相談・調整――ハラスメント相談室を利活用するために

 ハラスメントへの対応は難しいとよく言われます。その通りです。

 学内で「ハラスメントを許しません」というポスターを掲示し、毎年のようにハラスメント防止のための研修を行ってもハラスメントがなくなることはありません。これはわたしたちの心がけが悪いせいでしょうか。

 ハラスメント被害者が泣き寝入りすることのないようにと、被害を受けたという相談者に寄り添った対応をしたつもりなのにかえって問題をこじらせてしまったり、当事者から批判を受けたりしたようなことはありませんか。

 あるいは、熱心に指導したつもりの部下や学生、同僚からハラスメントを受けたということでの事情確認の電話やメールを相談員から受けて頭にカァーッと血が上ったり、どうしようと不安に襲われたりしたようなことはないでしょうか。

 私たちは日頃「ハラスメント」という言葉を啓発パンフレットや研修、ニュースなどで耳にしていても、実際に自分が問題の渦中に巻き込まれない限り、身を以て知ることはありません。20年、30年と大学に勤務している教職員であっても、大学がハラスメントにどのように組織的に対応しているのかを知らない方がほとんどです。

 自分が経験した教育・研究、職務上の困りごとをハラスメントではないかと思ったとしても、躊躇なくハラスメント相談室に連絡できる人は少ないでしょう。加害者相当とみなされたことで学内の誰にも相談できずに弁護士をたてて弁護してもらうしかないと考える人もいますが、ハラスメント相談室で別の相談員にアドバイスを求めることができます。管理責任者として研究室や部署のハラスメント事案に対応しなければならなくなったときに、どういう段取りで関与すればよいか、相談室でアドバイスを受けることもできます。

 ハラスメント相談室の役割は、①ハラスメントがよくわからないという人向けの情報発信や啓発活動、②ハラスメントを受けたかもしれないと思った方への相談行為、③問題改善のために加害者とされる人や部局・部署とのアウトリーチ的な調整行為を行うことです。
 
 本書は、次のような困りごとを抱えている方向けに書かれています。
 
①ハラスメントの被害者、加害者相当とされた方、及び管理者としてハラスメント相談室で何ができるかを知った上で利用したいという方

②高等教育機関の管理責任者としてこれからハラスメント相談室設置を検討したい方

③大学の教職員、学生・院生で当事者ではないのだけれども、大学におけるハラスメントの実態や要因、対応の施策を知りたい方
 
 あらかじめ本書の構成を述べておきます。第一章では北海道大学ハラスメント相談室室長の櫻井義秀(相談室長、教授、社会学)が、アカデミック・ハラスメントの定義や判断基準、及びハラスメントをどのように認識し対応したら良いのかという概説を行い、第二章において佐藤直弘(専門相談員、公認心理師)が国内外の実態調査を踏まえた先行研究をレビューしながら、ハラスメントの類型と態様を見ていきます。そして、第三章で木村純一(専門相談員、公認心理師)がハラスメント相談室の実際の機能について模擬事例を示しながら、相談と調整の一般的なやり方と留意点を説明します。第四章では、上田絵理(専門相談員、弁護士)がハラスメント事案の裁判例をもとにセクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメントがどのように認定され、教職員に対する懲戒の量定がきまるのかといったことについて解説します。最後の第五章は、櫻井が北海道大学におけるハラスメント対応の略史と、相談室を立ち上げ現在に至るまで頭を悩ませた事柄などを大学職員の目線で叙述していきます。付録として柿﨑真実子(専門相談員、公認心理師)が、ハラスメント対応の参考書を紹介しています。

 北海道大学では、一般の教職員のみならず、理事や総長にハラスメントがあったときをも想定した対応の要領が定めてあります。誰もが、ハラスメントの被害者・加害者・関係者になり得ます。「ハラスメントに聖域なし」は、偽らざるところです。

 大学からハラスメントがなくなることはありえません。一つに、ハラスメントの構造的な要因として権力や優越的地位の恣意的利用があり、大学も巨大な教育組織として高いレベルの教育・研究をめざして競争的な環境にある以上、常に構造的に強い負荷がかかっています。もう一つは、人間関係に誤解はつきものだし、教員─学生、職員間で役割期待の齟齬が人間葛藤を生み出す以上、その調整が個人や相談機関によってなされなければハラスメントとしてクレームがあがるのは当然なのです。むしろ、ハラスメントの相談件数は、権利の回復を求める組織上の健全さと考えられなくもありません。そうした声をしっかり聴き取っていくことがハラスメント相談室の役割であるし、大学関係者の方々には相談室をしっかり活用していただきたいと考えております。
 
 本書が大学のハラスメントに関心を寄せる多くの方にとって利活用できることを期待しています。
 
北海道大学ハラスメント相談室 室長 櫻井義秀


『大学のハラスメント相談室――ハラスメントと向き合うすべての人へ』目次

まえがき アカデミック・ハラスメントの予防・相談・調整
     ――ハラスメント相談室を利活用するために

第一章 ハラスメントの類型と予防・対策………櫻井義秀
 1 ハラスメント対応の基本
 2 セクシャル・ハラスメントからアカデミック・ハラスメントへ
 3 ハラスメントの予防と対策
 4 アカデミック・ハラスメントの構造的生起への対応

第二章 国内外の大学におけるハラスメントの実態………佐藤直弘
 1 学生と教職員が遭遇するハラスメント
 2 ハラスメントを経験する割合
 3 ハラスメントの被害に遭ったことによるこころとからだへの影響
 4 ハラスメントの被害に遭った際に特徴的な対処行動
 5 ハラスメントの被害に遭った学生と教職員がこころとからだの健康を保つための対処方策
 6 正確な実態把握の必要性と効果的なハラスメント対策のために
 7 最後に

第三章 ハラスメント相談室の業務対応………木村純一
 1 ハラスメントの理解やイメージの多様性
 2 ハラスメントの弊害と予防の大切さ
 3 北海道大学におけるハラスメントの定義
 4 ハラスメント相談室が相談対応する上で留意していること
 5 ハラスメント相談をする前の準備
 6 カウンセリングとハラスメント相談の違い
 7 大学によるハラスメント相談の体制の違い
 8 北海道大学のハラスメント相談室ができること
 9 各対応の効果と副作用について
 10 相談対応の決定について
 11 「助言」の事例紹介
 12 「調整」(関係調整)の事例紹介
 13 「調整」(環境調整)の事例紹介
 14 相談することを迷っている方へ

第四章 裁判例からみるアカデミック・ハラスメント、セクシャル・ハラスメント………上田絵理
 1 ハラスメントに関する裁判例の類型
 2 教員と学生間のハラスメント
 3 教員間のハラスメント事案
 4 大学事務職員に関するハラスメント事案
 5 まとめ

第五章 北海道大学におけるハラスメント相談の略史………櫻井義秀
 1 北海道大学におけるハラスメント相談室設置の経緯
 2 ハラスメント相談室設置の組織的課題
 3 相談室体制の充実

付録 ハラスメント対応の参考書籍紹介………柿﨑真実子

おわりに………櫻井義秀
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