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何かが変わった

 昭和四十三年、小学三年生の夏休み。

 同じ県内の山の手に引っ越した。

 そこに両親が戸建ての家を購入したからだった。

 うれしくて堪らなかった。

 これで、今のこの嫌な所から抜け出せる。

 当時の住まいは、ガラが悪い地域のプライバシーなど無きに等しい賃貸の長屋。

 近所には同年代の子供が沢山いて、粗野で乱暴なクソガキどもが幅を利かしていた。

 臆病で気弱な私は奴らに近づかなかった。

 そのため友達はいなかった。

 それで寂しくはなかったが、家でも学校でも息が詰まりそうだった。

 これが、ずっと続くのかと思うと嫌で嫌で堪らなかった。

 でも、自分ではどうすることもできず、いつも気分が沈んでいた。周りからは、陰気で元気がないと言われた。

 それが突然、抜け出せる絶好の機会がやってきた。

 喜び勇んで引っ越しの準備を手伝った。

 私のそんな様子を見て、両親はびっくりしていたが、私は確信していた。

 これで変われる。

 引っ越した翌日の朝。

 母親に起こされなくても目覚めて、二階の部屋の窓を開けて外を眺めた。

 朝日が眩しく、空気が清々しかった。

 何かが変わった。

 人生の歯車が噛み合い始めた。
                 <了>