【裁判例】RKコンサルティング事件③争点と裁判所の判断

0.これまでの記事

RKコンサルティング事件①概要
RKコンサルティング事件②給与体系

1.争点

【争点1】
地域別基本保障給が支払われているか

【争点2】
成績手当のうち地域別基本保障給の未払いがあるか

2-1 基礎額から地域別基本保障給が控除されている点
①雇用契約時に控除の説明を受けていない。
②営業成績による不平等な規律である
③委託型募集人廃止に伴う代理店負担の転嫁であり、保険業法及び労基法に反し無効

※給与体系の説明については前号の記事を確認

成績手当

2-2 地域別基本保障給が支払われた後に、同額が、成績手当から控除されている点

15万円超過

2.裁判所の判断

【争点1】
地域別基本保障給が支払われているか

「原告らは,地域別基本保障給の未払いがあると主張する」が、「保障給は適切に支払われたことが認められる。」

この点は、そもそも最低保障も払われていないという主張であるが、実質的な争点となっていないようである。

【争点2】成績手当のうち地域別基本保障給の未払いがあるか
2-1 基礎額から地域別基本保障給が控除されている点
①控除の説明を受けていないこと

控除の説明を受けていないという「原告らの上記各供述は,」「直ちに採用できない。また,仮に原告らがこのような説明を受けていなかったとしても,そのことから,直ちに,原告らとの間で,就業規則の一部である営業職賃金規程の定めが無効になるとはいえないから,原告らの上記主張は採用できない。」

同争点は、控除されていないという主張ではなく、控除をすることが無効であるという主張である。雇用契約においては、就業規則等が契約の内容となるため、全ての説明を求められているわけではない。

②営業成績による不平等な規律

「雇用契約を締結した以上,使用者は,労働者に対し,その営業成績がどれほど低くても,最低賃金額の賃金を支払わなければならない。このため,営業成績の悪い者がいる中で,完全に営業成績に比例した賃金体系は許されないこととなる。加えて,地域別基本保障給が,最低賃金を保障する趣旨に基づくものであって,歩合給である成績手当とは趣旨を異にするものであること,賃金をどのように定めるかは基本的には私的自治に委ねられるべきであることを考慮すると,原告らの指摘する点をもって,上記規定が不合理である,あるいは,不適切なものということはできない。」

つまりは、最低賃金が支払われている限り、成績手当の計算は私的自治に委ねられるべきであり、不合理とは言えないとされている。

③保険業法及び労基法上違反

「保険業法の改正や労働基準法の趣旨が,本件控除のような規定を許さないものであるとは認められない以上,原告らの上記主張も採用できない。」

保険業法は、成績手当の計算根拠を指定するものではなく、労働者としての管理を求めるものである。
現在は紛争化することは考えにくいが、委託型募集人の廃止に伴い、歩合給が禁止になるなど、労働者としての条件が不利益に変更される場合には、労働法上の問題は発生しうる。もっとも、多くの募集人は個人事業主から雇用契約に移行した形であるため直接的に労働条件が変更したということにはなりづらい(労働者が条件が変わったわけではなく、個人事業主が雇用契約を締結したという形式)。

2-2 地域別基本保障給が支払われた後に、同額が、成績手当から控除されている点

「第11条の規定において,一定の場合には,同条の規定に基づき算出された金額を『成績手当』として支払う旨の記載があることを考慮すると,同条の規定が適用される場合には,成績手当の額は,第7条の規定のみにより算出される金額ではなく,第11条の規定を適用して得られる金額と解するのが相当である。」

裁判所は、原告の主張が「成績手当」から、さらに控除するのは根拠がないというものであるとして、11条が適用される場合(15万円超過)は、成績手当は11条が適用されることとなるため、11条の規定により計算された成績手当を支払うことは問題ないとする。

3.補足

募集人の11条に関する(争点2-2)主張の中で、

 会社は,募集人らに対し,「営業成績が悪い月には,形式上,地域別基本保障給を支払っていたものの,これを貸付金とし,支払済みの地域別基本保障給相当額を,翌月以降の成績手当から控除したり,退職した後請求したりしていたが,このような控除等をする根拠はない。」

として、単に成績手当からの控除のみならず、退職後への請求の問題について言及している。この点は搾取として新聞等で盛んに指摘されていた点である。

この点については、裁判所は特段判断を示していない。おそらく、かかる点を立証できなかったか、今回の判決について募集人らが退職後請求を受けていたわけではない等で判断する必要性がなかったものだと思われる。

しかし、退職後も貸付金を請求されている等の募集人がいる場合には、その効力については疑義があるところである(実際に、会社が成績手当の計算を超えて、貸付金などとして回収、控除をしていた場合には、無効となる可能性が高い)。

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