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営業トークの「嘘」を見抜け! ~保険と幸せの「矛盾」とは?

二十四節気:小暑 七十二候:鷹乃学習(末候)

あるセミナーで、部長さんが「保険金をお渡しすることが、お客様の幸せ」と話しました。その言葉を聞いて、菩薩の力が抜けました。保険金を受け取ることは、お客様の幸せにつながるのでしょうか?民間の介護保険と医療保険を例に、幸せと保険の関係を考えます。


▶あるセミナーで感じた違和感

先日、某生命保険会社主催のセミナーに参加しました。テーマは「介護」。介護に携わるケアマネージャーさんや社会保険労務士さんのお話に続き、営業部長のAさんがお話しします。
 
「ビジネスチャンスはお客様に必要なものを売るところにあります。お客さんが寝たきりになったときに保険金をお渡しできるように、当社の介護保険を積極的に販売しましょう。それがお客様の幸せにつながります。」
 
保険会社主催のセミナーなので、保険を売りましょうというのはよくわかります。Aさんに悪気はないと思います。でも、私は力が抜けました。Aさんの頭の中を想像してみると、「寝たきりになる→お金が必要→だから民間の介護保険に加入しよう」という論理のようです。その考え方は、一見すると、おかしなところはありません。お金が不足する分は、保険で補うという考え方はそれほど無理ではありません。しかし、よく考えると、おかしなところもあります。
 
Aさんの話の中に、「お客様の幸せ」という言葉が出てきました。では、「幸せ」とは何でしょうか?もし自分や家族が寝たきりになってしまったときに、何を「幸せ」と呼ぶのでしょうか。Aさんは、「保険からお金を受け取ること=幸せ」と考えているようです。たしかにお金はもらえたほうがよいでしょう。しかし、保険金によって経済的には満たされても体が自由にならないなら、幸せとはいえない気がします。
 
本当に幸せと呼べるのは、体が少し不自由でも、使える部分を有効に活用して、人や機器の助けを借りながら、自分の力で動けることです(残存能力の活用といいます)。多少苦しくても早い段階でリハビリをすれば、ずっと寝たきりの状態になるという確率はかなり低くなるという調査結果もあります(デンマークでは日本のような寝たきりの人はいないそうです)。人間にとっては、自分の体を自分の意思で動かすことにまさる幸せはありません。
 
幸せとは「体が不自由になっても、残存能力を活用して自分の力で動けること」と定義しましょう。すると、保険の役割が自分たちの幸せと大きな矛盾をはらんでいることに気づきます。

▶保険と幸せの「矛盾」とは?

民間の介護保険では、保険金の支払い条件が「公的介護保険」と連動するようになっているものが一般的です。たとえばセミナーを主催した保険会社の保険では、「要介護2以上」の状態になったときに保険金が支払われます(参考:「要介護2」をわかりやすく言うと「人の手を借りずに自分だけで日常生活を送ることが難しい状態」のことです。かなり重い状態と考えてください)
 
いったん「要介護2」の認定を受けた人がリハビリをがんばった結果、「要介護1」の認定を受けることになると、保険会社からの保険金は受け取れなくなります。リハビリによって自力で動けるようになることが本当は幸せなのに、保険金はもらえなくなるのです。常識的に考えると、厳しいリハビリをがんばった「ごほうび」がもらえてもよさそうですが、「ごほうび」どころか、厳しいペナルティを与えられてしまうというわけです。皮肉なことですね。
 
このように、本当の幸せと(民間の)介護保険は、矛盾をはらんだ関係にあります。自力で動けるようにがんばるとお金がもらえなくなるなら、下手にがんばるよりお金をもらったほうがよいと考える人も出てくる人もいることでしょう。これは保険のしくみとして、本末転倒です。保険は幸せを応援するためのものなのに、このケースでは逆に足を引っ張る存在になっています。幸せと保険が同じ方向を向いていないことは、大きな問題です。

▶医療保険における問題

このようなケースは、介護保険だけではありません。入院を保障する「医療保険」にも同じようなことがいえます。一般的な医療保険は、病院に入院した日数によって保険金が支払われます。治療を受けた場所が自宅なら、病院と同じレベルの治療をしてもお金はもらえません。たとえば末期がんの場合、病院で治療を受ければ保険金をもらうことはできますが、在宅で治療を行うともらえません(一部もらえる保険もあります)。でも、人によっては住み慣れた自宅で治療を望む人も多いはずです。そんなときにいまの医療保険は助けてくれません。
 
1970年は77%の人が自宅で最期を迎えました。2020年に自宅で最後を迎えた人は、約16%です。病院で亡くなる人が増えたのは、それほど昔のことではありません。だから、これからどうなるかだって本当のところはわかりません。在宅医療に力をいれるお医者さんも少しずつ増えています。過剰な延命措置を施されるより、貴重な時間を家族と一緒にすごしたいという人も増えてくるはずです(私もそういう考えです)。あなたがもし在宅治療を希望するなら、現在の医療保険をあてにするわけにはいきません。
 
人生は、A部長さんの話のように、単純には割り切れません。もちろん民間の介護保険が役立つ場面もあるでしょう。しかし、本当に困ったときに役に立つのは何なのかをじっくり考えてみることも必要だと思います。「病気や介護にお金がかかる→だから保険に入ろう」というのは、保険会社の理屈にどっぷりはまってしまっています。「脅し」とか「あおり」と言ってもよいかも知れません。

▶歳をとってからは、制約のない「資産」がベスト

では、保険ではない方法にはどのようなものがあるのでしょうか?
 
それは「資産」です。すぐに現金に交換できるものがよいでしょう。保険の場合は、「要介護2」など一定の条件を満たさないと、お金をもらうことができせんが、資産の場合はそのような制約はありません。自分が必要なときにお金を使えばよいのです。リハビリのために手すりをつけたり、器具が必要なら必要に応じて購入したりすることができます。自分で体を動かすという本当の幸せを、これまでに積み上げた資産が応援してくれるのです。これなら矛盾はありません。
 
資産の一部は「終身年金」のように、一生涯受け取れるしくみのものがベストです。(終身年金の記事はこちら ↓ )

 国民年金や厚生年金などの公的年金も終身年金なので、自分の資産からもらう終身年金と公的年金からもらう終身年金で十分な備えを確保しておきたいものです。これなら健康なときはもちろん、病気のときや介護のときにもお金を受け取ることができます。もしアパートを経営している人であれば、家賃収入が「終身年金」の代わりになります。
 
若い時期は、資産がそれほど多くないので、保険は大いに役立ちます。ただ、年齢を重ね、資産が増えてくると、保険よりも資産のほうが使いやすいのです。ライフプランを考えるときは、積み立て(資産形成)だけ、保険だけというように偏るのではなく、資産形成と保険をバランスよく考えるということが必要です。どんなことにもいえますが、ひとつひとつの部分に注目するだけでなく、全体像を見渡すことも大切にしたいですね。
 
あなたにとっての「本当の幸せ」とは何でしょうか。営業トークにまどわされず、じっくり考えてみてください。

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