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呼吸器疾患の症状・治療の現状と療養生活をとりまく社会変化【#在宅医療研究会オンライン|4月度開催レポート】

毎月オンラインで開催している「在宅医療研究会オンライン」、4月度のレポートをお届けします。

講演:呼吸器疾患のいろいろ 〜在宅と病院の連携も添えて〜
演者:東京都立駒込病院 呼吸器内科 四方田真紀子 先生


生命を維持するうえで欠かせない機能「呼吸」。その呼吸機能が低下することで、身体には様々な症状が起こります。呼吸器疾患や症状は多岐にわたりますが、治療が進歩するなかで生存期間が年々伸びてきています。その反面、病気と付き合う期間が長期化し、通院しながら療養生活を続ける患者が増えてきています。今回の講演では、そんな呼吸器疾患の症状や治療の現状について、四方田先生に語っていただきました。

呼吸状態が変化したときに現れるサイン

呼吸状態を観察する指標には「呼吸回数」「自覚症状」「SpO2(酸素飽和度)」「チアノーゼ」「体位の変化」「呼吸補助筋の緊張」「呼吸音の減弱」などがあります。

この中で、慢性的に呼吸機能が低下している人では呼吸困難感などの「自覚症状」は出にくく、指先や顔色が悪くなる「チアノーゼ」は貧血がある人の場合には確実な指標にはなりにくいものです。また、昨今新型コロナウイルス流行などで注目される項目に「SpO2(酸素飽和度)」がありますが、SpO2は、身体が呼吸状態を改善するためにさまざまな工夫をして頑張ったあとに「もうどうしようもない」という状態になってはじめて低下していきます。

呼吸状態が悪化したときに一番始めに現れるサイン(症状)は「呼吸回数の変化」です。呼吸回数は人間が本能的・生理的に制御しており、呼吸状態に応じて変化していくため、診察時の重要な指標になります。
呼吸回数に続いて2番目に現れるサインは「呼吸補助筋の緊張」です。人は息を吸うとき(吸気)と、吐くとき(呼気)で違う筋肉を使っています。そこで吸気の観察には「視診」を行い、咽頭の上下の動き・下顎の動き・胸鎖乳突筋の動きといった、首の周りの筋肉の動作を見ていきます。また呼気の観察では「触診」を行い、お腹の筋肉(腹直筋)の動きなどを見ていきます。

呼吸不全の分類~病態による分け方

①Ⅰ型呼吸不全:
換気血流不均等・シャント・拡散障害
例)肺炎、間質性肺炎、心不全など
②Ⅱ型呼吸不全:
肺胞低換気
例)COPD(慢性閉塞性肺疾患)、陳旧性肺結核、気管支拡張症など

Ⅰ型呼吸不全では、酸素の血中濃度が低下します。Ⅱ型呼吸不全では、酸素の血中濃度が下がるのに加え、二酸化炭素の血中濃度が上がります。呼吸不全が重症化していくと、Ⅱ型呼吸不全のリスクが高まり「CO2ナルコーシス」が起こりやすくなります。

CO2ナルコーシス

CO2ナルコーシスは、呼吸機能が低下している患者に対して高濃度の酸素を投与することで、呼吸の抑制や停止が起こり、肺胞低換気・意識障害などが起こること。人体には血中のO2(酸素)濃度を感知するO2センサーとCO2(二酸化炭素)濃度を感知するCO2センサーが存在しており、血中のO2濃度、CO2濃度、pH(ペーハー)を一定に維持しています。
それが、CO2濃度が慢性的に高い状態が続くと、CO2センサーがCO2濃度の上昇に反応しなくなります。この状態で高濃度の酸素投与を行うと、CO2センサーは機能せず、O2センサーは「酸素が足りている=換気は不要(呼吸しなくてもいい)」と判断してしまうため、血中にCO2が蓄積されているにも関わらず必要な肺換気が行われず、呼吸が止まるなど重篤な状態へと移行しやすくなります。

「呼吸状態が悪い人には酸素を吸わせる(酸素投与)」が治療の基本ですが、この酸素を吸わせすぎることによって起こりうるのがCO2ナルコーシスです。Ⅱ型呼吸不全の患者、とくに酸素療法適応の代表疾患であるCOPD患者では、このCO2ナルコーシスが起こりやすくなります。

Ⅱ型呼吸不全の治療

・酸素投与は控えめに、慎重に行う。
(※低酸素障害>CO2ナルコ―シスによる障害。「CO2ナルコ―シスが心配だから、酸素投与しない」はNG)
・睡眠薬など、呼吸抑制を来たす薬剤の使用歴に注意する。
・「肺に入る酸素自体が少ないと二酸化炭素も出せない(排出できない)」ため、換気量を増やす必要がある。原疾患の治療に加え、人工換気(NPPV、人工呼吸管理)などを行っていく。

呼吸不全の症状

<呼吸器症状>
・呼吸の亢進に関する所見:呼吸筋の活動亢進
・補助呼吸筋の活動:鎖骨上窩・肋間腔の陥凹
・呼吸数:増加(まれに減少)
・呼吸筋疲労・呼吸抑制に関する
・所見:奇異性呼吸、呼吸微弱、呼吸不整、無呼吸
<呼吸器系以外の症状>
・循環系:脈拍数増加、高血圧、浮腫
・神経系:頭痛(高CO2血症では、早朝の頭痛が30-40%にみられる)、傾眠、注意力低下、異常行動、不随意運動、瞳孔の異常(高CO2血症状で縮瞳、低酸素血症で散瞳)
・皮膚:チアノーゼ、発汗

呼吸不全になると、代償としてさまざまな症状が現れます。呼吸不全では通常、呼吸回数が増えていきますが、症状悪化が進行すると呼吸回数の減少が起こります。これは、呼吸は筋肉運動のため、呼吸回数を増やし筋肉を使い続けることでマラソンを走り続けているような状態が続き、呼吸筋が疲弊していくためです。こうした呼吸回数の減少は、CO2ナルコーシスの前兆として重要な指標となります。

また、呼吸器系以外の悪化の症状(血中のCO2濃度上昇のサイン)として、早朝の頭痛が比較的多くみられます。他にも傾眠、注意力低下、異常行動(ウトウトしている、ボーっとしている、言動がおかしい、そわそわしている)なども起こりやすく、症状や行動の変化を観察していくことが重要です。こういった症状が出現している場合にはCO2ナルコーシスの可能性も考えられるため、病院受診・早期治療につなげることが大切です。

呼吸器疾患~肺がん~

肺がんの組織型

肺がんには大きく分けて「腺がん」「扁平上皮がん」「小細胞がん」「大細胞がん」の4つの種類があります。この中で最も割合が多い腺がんは、喫煙歴に関係なく女性や若い人などありとあらゆる人が罹患する可能性があるがんで、扁平上皮がんや小細胞がんは、喫煙と関連が高いとされています。

がんのステージ

Ⅰ期→1カ所だけに出現。発生部位の切除で治療できる。7~8割根治。
Ⅱ期→隣接するリンパ節に転移している。放射線治療が可能。6~7割根治。
Ⅲ期→隣の隣のリンパ節まで転移。心臓に近い部分に転移するため、完全切除が難しい。放射線治療推奨。
Ⅳ期→遠隔転移が起きている。進行期だが末期とは限らない。抗がん剤などで進行を遅らせる。

ここでいう「根治」とは「5年間再発がない」状態のこと。2年前までの医学では根治可能なのはⅢ期までと言われていましたが、最近ではⅣ期まで含めた5年生存率が向上してきています。それだけがんと付き合う期間が長くなってきているため、在宅でのがん患者へのケアの必要性はこれからも高まっていくと考えられます。

肺がん治療の変遷

肺がん患者の治療は、2000年代は抗がん剤による点滴治療が主流でしたが、2009年以降は内服できる分子標的薬が登場。2015年には免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ)が登場し、肺がん患者の予後が改善していきました。

肺がん治療の流れ

現在は、よほどの特例ではない限り、本人にがんの告知を行っています。きちんと説明しないと、本人が自分の症状についてずっと不安を感じつづけてしまうため、重度の認知症などではない限りは説明し、可能な治療を提案し治療が開始されます。

治療の流れとしては、治療開始時は1週間前後の入院治療、その後、多くの人は外来通院に切り替えて、普段の生活をしながら治療を続けていきます。治療期間は、以前は半年から7~8カ月程度でしたが、今は1年~数年単位に及ぶことが多いそうです。治療と同時に緩和ケアも行い、徐々に終末期へと向かっていきます。

がん治療薬について

・分子標的薬:間違った働きをしている(がんを作っている)遺伝子変異に作用し、働きをブロックする薬。標的(ターゲット)が決まっているため、従来の抗がん剤に比べ脱毛や倦怠感などの副作用が起こりづらい。腺がんのうち4割程度の患者に適応される。EGFR阻害薬が適応されることが多い。遺伝子変異に合わせた治療薬の開発が続けられている。

・免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ):がん細胞は、T細胞(リンパ球)を攻撃し、さらにリンパ球が自分を攻撃しないよう抑制(ブレーキ)をかけてしまう。オプジーボは、そのブレーキを解除する(リンパ球ががん細胞と戦えるように戻す)作用がある。オプジーボの登場により、肺がん患者の5年生存率や生存期間は改善している。

肺がん患者の治療~まとめ

治療の進歩により、肺がん患者の余命は伸びています。その分、普段の生活・仕事をしながら治療を続ける患者が増え、より長期にわたって治療や症状と付き合っていく必要があります。東京などでは一人暮らしの人も多く、家族の協力を得るのが難しい状況もあります。そのため、なるべく早め(ある程度元気なうち)に訪問診療・訪問看護などを導入し、症状進行時に安心して治療を続けられるよう関係性づくりができるよう、四方田先生は患者に推奨しているそうです。

がん患者に起こる緊急症(オンコロジー・エマージェンシー)

・上大静脈症候群・気道狭窄:顔面や腕がむくむ。進行すると脳浮腫による意識障害が起こるが、命に関わることは少ない。

・電解質異常:乳がんやがんの骨転移がある人では高カルシウム血症、さまざまながんや抗がん剤の使用で低ナトリウム血症が起こることがある。悪心、嘔吐、だるさ、頭痛、進行すると傾眠状態となる。電解質異常の可能性のある症状が出現している場合、早めの受診・治療につなげることが大切。

・脊髄圧迫:がんの骨転移による脊髄神経の圧迫などで起こる。痛みや痺れ、力が入りにくいなどの症状が起こり、足が動かなくなることもある。麻痺が完成してしまうとその部分の機能が戻らない可能性がある。症状の早期発見・早期受診からの治療が重要となる。

・発熱:薬剤性で肺炎が起きたり、免疫チェックポイント療法の副作用でホルモンバランスが乱れたりすることで、発熱することがある。最近では新型コロナウイルスの可能性を除外する必要もあり、適切な検査、原因に応じた治療が必要。

まとめ

新型コロナウイルス流行により、多くの医療機関で面会が制限・禁止となりました。それはがんの終末期・緩和ケア病棟においても同様ですが、それにより在宅での療養や看取りを希望する患者が増えてきています。症状管理目的の入院やレスパイト入院など、短期の入院を繰り返しながら在宅で生活する時間を増やすなど、病院と在宅を行き来しながら治療・療養を継続する患者も増えてきました。そのため、今後は病院と在宅、医療機関やスタッフの関係の見直しや深い連携が重要となります。

四方田先生、ありがとうございました。

ホウカンTOKYOの夕べ(講義上映)のご案内

現在、オンライン開催となっている「在宅医療研究会」ですが、ホウカンTOKYO杉並・中野では、“ホウカンTOKYOの夕べ”として少人数での講義の上映会を開催しています。研究会当日にリアルタイムで、大きな画面で講義を見ることができます。感染対策にも配慮しながら行っていますので、近隣でご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

主催:ホウカンTOKYO杉並・中野(事業所名:ホウカンTOKYO本部)

■連絡先
TEL:03-5913-7299
FAX:050-3156-2824

■所在地
〒166-0012 東京都杉並区和田3-32-9
(丸ノ内線 東高円寺駅より徒歩約3分)

■Webサイト
https://hokantokyo.jp


今後の開催予定

今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。お気軽にお越しください。



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