見出し画像

公衆衛生学講義【訪問看護ステーション事業を経営戦略的に考える】開催レポート

ホウカンTOKYO杉並・中野(運営:ハノン・ケアシステム株式会社)代表・河田が【訪問看護ステーション事業を経営戦略的に考える】をテーマに、帝京大学医学部5年生に向けた公衆衛生学の講義実習の講師として登壇しました。

元々ITや経営に関わる企業・仕事に長く携わってきた河田が訪問看護事業に携わるようになったのは、“プロボノ”という職業の専門性を活かしたボランティア活動への参加がきっかけでした。これからの超高齢社会に向けて在宅医療・福祉の必要性や需要が増大する一方、その一翼を担うべく開設が相次ぐ訪問看護ステーションは、経営難などにより閉所が後を絶ちません。そこで持続可能な訪問看護の経営の形を作っていきたいという思いから、河田はホウカンTOKYOで訪問看護事業を始めました。

講義の目的

① 在宅医療の一翼を担う訪問看護ステーション事業を経営的な視点で理解する
② 経営的な視点とはどのような視点なのか理解する
③ 上記の理解から、自分なりの意見を持つ

テーマや目的は「訪問看護」「経営」ですが、講義では普段から物事を考えるときに有用となる考え方や枠組みなどが紹介され、演習を通して実践することで思考・視野を広げ、そこから訪問看護や経営について深掘りしていきました。

ウォーミングアップ:問い(イシュー)を明確にする

何か問題に向き合うとき、各自が捉えた課題・目標・視点などがバラバラになっていると認識や方向性がズレていってしまいます。

そのため、物事と考えるときには「何を解決しようとしているのか?」「相手が今求めていることは何か?」など、“今考えるべき問い=イシュー”を明確にして、イシューを共有していくことが重要となります。受講生のみなさんがレストランの経営者になったとして、クレームにどう対処するか、という演習を通じて体感できたようです。

演習:訪問看護を考える問い

〇テーマ:訪問看護
知り合いから「訪問看護ステーションの事業ってどう?」と相談を受けました。相手は将来医師になるあなたからなら、良いアドバイスがもらえると期待しています。どんな返答をしますか?
〇明確にすべきこと
まず考えるべきことは、相談相手のイシュー(問い)が何なのかということです。
開業するために儲かるかどうかや初期費用について聞きたいのか、それとも利用する側の目線での話を聞きたいのか、「訪問看護ステーションの事業ってどう?」だけではわからないため「イシュー(の目的)は何か?」を明確にする必要があります。
〇イシューに答えるために「枠組み」を考える
イシューを明確にし、それに答えていくためには何か1つのことだけに依存して結論を出すのではなく、全体感をとらえる枠組み(フレームワーク)を考えることが重要です。枠組みは、物事を考えるときに押さえておくべき大きなポイントや項目のこと。枠組みをきちんと捉えることで、全体像を掴んだうえで情報を適切に捉え、求められたイシューに答えていくことにつながります。

枠組みを考える際のポイントには、

・立場を変えてみる(相手の立場で考える)
・大から小へ
・具体と抽象

などがあります。

今回の勉強会では、訪問看護事業を題材に、経営戦略で一般的に使われているフレームワークであるPEST(ペスト)分析、ファイブフォース分析、バリューチェーン分析などの特徴を整理したうえで実際に分析してみる、という経営分析を疑似体験するようなワークとなりました。

一例としてPEST分析をご紹介します。

PEST分析から考える訪問看護事業

PEST分析とは、業界を取り巻く環境のうち、政治的要因(P)、経済的要因(E)、社会的要因(S)、技術的要因(T)を明確にするもので「業界に影響を与える要因を洗い出し業界の今後の方向性を導くこと」を目的にして用いられます。

〇PESTで分析する訪問看護事業
政治的要因(P):医療政策の方向性、包括支払い制度(DPC)の導入など
経済的要因(E):国家財政の状況、今後の日本経済の展望など
社会的要因(S):超高齢化社会、2025年問題、生活習慣病の増加、死生観の変化など
技術的要因(T):AI・5Gなどの医療分野への適用、オンライン診療の広がりなど

「訪問看護ステーション事業に参入すべきか?」という問いに対して、PEST分析で整理された業界に影響を与える要因を考えると、「高齢化社会の進展から財政における医療費・介護費の負担が増大し、在宅医療へのシフトが進むと想定される。患者本人の価値観の変化から自宅で過ごしたいと考える人が増え、訪問看護への需要がより高まっていくのではないか?」といった仮説・分析結果が導き出されます。どんな外部要因があるのか、その状況がイシュー(訪問看護に参入すべきか)に対して追い風か否かを考えていきますが、情報をどう解釈していくかにより、イシューへの答えは異なってきます。

「どんなビジョンがあるのか?」「訪問看護を始めるための明確な動機はあるのか?」「どんな目的で、いつ、どこで、どのくらいの規模でやるのか?」参加した学生たちは、イシューと枠組みをもとに、それぞれの問い・分析・答えを考えていました。

東京都では一年に約100カ所の訪問看護ステーションが立ち上がり、約80カ所が廃業となっています。三年間経営が存続する訪問看護事業は半数程度。「なぜ廃業してしまうのか?」「どうすれば事業を持続できるのか?」それを適切に問い、解決策を考えるためには、イシューや枠組みを考えることは欠かせないキーポイントとなります。

河田まとめ

・相手が何を聞きたいのか、今何を問われているのか(イシュー)を考える
・一つの情報だけに飛びづいて結論を出したりせず、何に答えればイシューに答えられるのか考える(枠組み)
・多くの情報を眺めるだけでなく、そこから何が言えるのか、イシューや枠組みの間を踏まえて解釈する(解釈は一つだけではない)
・唯一絶対の枠組みは存在せず、そのときの状況により変わってくる
・病院でのイシュー・枠組み、在宅でのイシュー・枠組みは同じではない
・常に多面的にものごとをみて考えることを意識してほしい

学生からのフィードバック(一部抜粋)

・今回先生がお話頂いた内容は、経営(オーナー)という立場からして非常に重要な観点であるとともに、また私生活や例えば私の立場で言うと試験勉強などにも応用できる内容だなと感じました。それと同時に早く現場で使用したいという気持ちが強まりました。
・相手との問題を解決する際など、相手が何を聞きたいのかイシューを考え、何が問われているのか、どうしたらイシューに答えられるのかを考えることが大事であり、また多面的に物事を考えることの重要性を理解することができました。
・近年では医療機関から在宅医療への移行の推進もあり、自宅や施設でも看護のサービスを受けられる訪問看護事業はこれからもっと必要とされる事業であると感じました。
・河田先生の授業では、イシューを明確にして問題に対してアプローチしていく考え方を知ることができました。この考え方は多職種の連携、コミュニケーションを円滑にする上でも重要なことだと思いましたので、活用していきたいと思いました。

講義後、参加した医学生たちからは、今回の講義内容は訪問看護へのイシューに限らず、普段からの物事の考え方や視点が変わるきっかけやヒントになったと感想が寄せられました。

何か問題と向き合うときは、何事も多面的に、状況に応じて柔軟に考えていくことが重要となります。

多くの社会課題がある現代社会の中で、適切な問題意識や考え方を持ちつづけること、社会課題に取り組んでいくこと。ホウカンTOKYO では、訪問看護ステーションの事業が持続できなくなる課題を解決するために、看護師にしかできない仕事とそうでない仕事を切り分け、経営・IT・事務などの業務を専門担当者・部門に分けることで、適切に利益を生み出しながら継続できる訪問看護事業づくりに日々取り組んでいます。

ホウカンTOKYOは、常に今ある社会課題や問題に目を向け“今考えるべき問い=イシュー”と日々向き合っていける組織を目指し、これからも精進していきます。

〇経歴・プロフィール/河田浩司
・ハノン・ケアシステム株式会社(ホウカンTOKYO杉並・中野) 代表取締役
・認定NPO法人 サービスグラント フェロー
・株式会社グロービス パートナーファカルティ(クリティカルシンキング、企業研修講師)

・慶應義塾大学経済学部卒
・シンガポール国立大学経営大学院修了(MBA)
・東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医療管理政策学修了(医療管理学修士)

KDDI、IBM、IBMビジネスコンサルティングサービスを経て、2009年独立系コンサルティング会社入社、取締役に就任。新規事業の立ち上げ、業務改革、営業改革など多様なプロジェクトに責任者として参画し、机上論にとどまらず、実行フェーズに深く参画することで成果にこだわってきた。

2017年から訪問看護事業の支援を行い、2020年ハノン・ケアシステム株式会社代表取締役に就任。ホウカンTOKYO杉並・中野の運営およびホウカンTOKYOグループ各社の事務、ITをはじめ、経営全般について支援している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?