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「型」を活かして、子どもの声を聴く

このnoteは、保育スタジオの運営メンバーによる記事です。

ある日のできごと

いつもの耳鼻科に行くことを何日か前から話をしていたが、当日になって用事ができてしまい、別の耳鼻科だったら行けるという日があった。

息子(4歳)は耳鼻科に行くとしばしば「耳垢で鼓膜が見えない」と耳掃除をされる。

ただ、耳掃除への抵抗感があり、突然することになると息子は大泣きして暴れてしまう。

でも、耳掃除が必要なことは理解できているので、事前に伝えておくと受け入れることができるようだ。だから耳鼻科に行くときは、数日前から話をして息子が心の準備をできるようにしている。


急な予定の変更に、息子の心が揺れ動く不安がよぎった。けれども、話をしてみるとすんなり、「わかった、いいよ」と言ったので、初めての耳鼻科に行ってみることに決めた。車を降りて病院の入り口に向かっていくところまでは順調だった。


しかし、病院の扉の前まで来ると、突然
「やだー!いつもの耳鼻科がよかった!」
と、大声で叫びながらぐずり出した。


直感的に、ああ今日は無理かな、と思った。そして、様々な気持ちが込み上がってきた。


  • さっき納得してたのに「どうしていまさら?」と苛立つ気持ち。

  • 「絶対に今日耳鼻科を終わらせたい、安心させなきゃ」と焦る気持ち。

  • 「やっぱり無理してでもいつもの耳鼻科に行けばよかった!」と自分を責める気持ち。

  • 「そもそもいつもの耳鼻科もあんなに嫌がっていたのにそっちがよかったなんて、あまのじゃくな表現だな!」と息子を責める気持ち。


それに加えて、なんでいつもこの子は嫌なことがあるとこんなに激しく叫ぶんだろう!と、これまでの育児疲れが込み上がってくるような感情もあり、さらに夫ともいつもの耳鼻科まで行くかどうか少しもめて、私は疲れていた。

私は「もー!なんでー?」と叫びたい気持ちになっていた。


でも私は叫ぶ代わりに、落ち着いた口調で

「ん?いつもの耳鼻科がよかった?」

と返した。

すると息子から思ってもみない返答が返ってきた。

「だってエレベーターあるじゃん!」


「そっか~!エレベーターか!いつもの耳鼻科はエレベーターに乗るもんね。なんでここにはエレベーターがないんだろう?ここは一階建てなんだね。」

そんな会話が生まれ、息子はすんなり病院に入っていった。

「型」を活かす軽やかさ

もちろんこんなにうまくいくことばかりではない。

病院に入ってからも、待合室で椅子から崩れ落ちて床に寝転がろうとしたり、家に帰ればご飯の時間なのにお菓子をどうしても食べたいと主張したりしていた。


子育てをしていると、親が冷静でいられなくなるようなことが何度も何度もめまぐるしいほどに訪れる。

しかし、そんな中でも、先の場面で私が落ち着いた口調で「ん?いつもの耳鼻科がよかった?」と返すことができたのは、私が「型」を身に付けていたからだと思う。

相手の背景を知ろうとする「型」

この「型」は、相手の行動の背景を知ろうとする態度で、
「私」ではなく「あなた」を主語とした反応である。

「私」はそれをやめてほしいと思っている。一方で「あなた」は何があってその行動に至ったんだろう?と相手の背景を知ろうとする。

そのために、相手の言葉や行動をなぞるように返す「型」。

先のエピソードで言えば、この部分である。

息子「やだー!いつもの耳鼻科がよかった!」
(私にも、いろいろ思うところはあるけれど)
私「ん?(あなたは)いつもの耳鼻科がよかった?」

私は、耳鼻科を無事に終えられるかどうかで頭がいっぱいだったので、息子の主張にその場で耳を傾ける余裕は、正直なかった。

だけど、息子の「やだー!いつもの耳鼻科がよかった!」を、なぞるように「ん?いつもの耳鼻科がよかった?」と「型」で返すことは無理なくできた。

これが「型」を身に付けることの最大の魅力だと思う。

苛立つ気持ち、焦る気持ち、自分を責める気持ち、子どもを責める気持ち、そんな複雑な感情を抱いたまま、そこにエネルギーを使わずにまず聞いてみることをしてみる。

するとその瞬間に、「私」のことでいっぱいだった空間に、「あなた」の背景が入る隙間が生まれるような感覚が起こる。

この時も「型」を使ったことで思いがけず、エレベーターに乗りたかった息子の気持ちが、私と息子の空間に隙間を空けるように入ってきた。

すると、過去に私が必死で耳鼻科に連れて行ったあの時に、息子はエレベーターに乗ることにワクワクしていたんだな~と、そのワクワクする気持ちが手に取るように伝わってきて、その愛おしさにふっと肩の力が抜ける感覚があった。

おわりに

「型」を身に付けることで、余裕がなかったにもかかわらず、無理なく子どもの声を聴く可能性に開かれたと感じた子育てエピソードである。

もちろん、こうすればOKと、ただうまくいかせるためにむやみやたらに「型」を使って捉われることと、型を活かしてコミュニケーションに違いを生みだすことの違いをおさえることは大切である。

しかし、自分に余裕がないときこそ、今回の「型」に頼ってみることで、余白や前進が生まれやすくもなるのだ。


〈このnoteを書いた人〉
まなみん|Hoiku Studio運営メンバー
大学院で発達心理学を学んだ後、保育実践者に魅せられて保育士資格取得。保育所で5年保育に従事。2023年に家族で田舎町に移住。地域おこし協力隊として、地域コミュニティづくりに携わっている。4歳男児の育児中。

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