アラフィフ回帰戦6
いよいよ30年ぶりの同窓会。
うん。まあ、何とも言い難いが老化って人それぞれなんだなw
旧友たちと30年ぶりに顔を合わせてそれぞれの「あの時からの人生の行く末」を目の当たりにするのは何かしらの答えを見ているようで興味深い。30年前の彼らの性格と今の様子を見ているとあぁ…なるほどな…真面目にやってきたんだなぁ…とか、苦労したんだな…とか交わることの無かった30年という空白が想像出来てちょっと不思議な感覚だった。
旧友から他の旧友たちの情報を聞くのは思いの外興味ある話だった。当然皆それ相応に年を重ねていたが、やはりアラフィフともなると年の重ね方が何かに表れている。僕はどう映っているのだろうか?僕の年の重ね方は旧友にどう映るのだろうか?
他人にどう思われようが全く気にならなかった僕が久しぶりに他人の意見が聞きたくなった。ただ、それを聞いたとてそれぞれの年の重ね方による価値観によって白にも黒にもなるので結局は意味はない。恐らく、旧友に空白の30年を認めてもらいたかっただけかもしれない。
誰かが旧友たちの行く末の話をしていた。
「え!?ちょっと待って!なんて??」
「え?弓道部の子の話?」
ソフト部だった女子が答えてくれた。急に場の空気が変わったのでついつい聞き耳を立ててしまったのだ。
「うん。弓道部の子がなんだって?」
弓道部の後輩の子が…◯◯だったんだって…ええ!!と言った途切れ途切れの言葉が聞こえたからだ。
「えーとね。弓道部の後輩の女の子が卒業間際に事故で亡くなったらしいよ」
全身の血の気がサーっと下に降りてくると同時に黒いカーテンが閉じるような感覚。
「え?だれ?つうか、何で?」
「弓道部の◯◯くんに聞いたんだけど一個下のエリちゃんが車の事故に巻き込まれたらしいのよ。免許取ったばかりで友達だか先輩だかをドライブに連れてく約束してらしくて東北自動車道の玉突き事故だって。」
確かにうろ覚えだが記憶にある。33台巻き込んだ悲惨な大事故だったのでニュースで見た記憶はある。
「エリって、弓道部の一個下のエリ?」
「エリちゃんって1人しか居なかったでしょ。可哀想よね」
何かを有無を言わさず剥ぎ取られたというか、心臓を突然抜き取られたらこんな感覚なのかもしれない。
「伊藤は結構仲良かったよね?学校帰りにたまに一緒に帰ってたの噂になってたよ。え?伊藤はあの事件知らなかったの??」
「東京にいたからな。今みたいにSNSとかもなければまだポケベルすら無かった時代だから。」
「そっか…ビックリだよね」
「ああ。エリはそこで止まってたのか…」
「高校生で人生終わるって可哀想だけど大人の世界に塗れなくて済んだのは良かったかもね…」
「だよね〜!!あのピュアな頃に戻りたい〜身体だけでも!」
鈴木が1番ピュアじゃなかった気がするが、多分本心だろう。
同窓会はその後もたわいもない高校時代の話に花を咲かせて解散した。
駅前の居酒屋から実家までは徒歩15分くらい。ほのかにお酒が入ったので無性に歩いて帰りたかった。
誰かとドライブ行く約束って俺じゃないよな…俺か…?半分社交辞令、半分期待感がない混ぜとなった気持ちだった気がする。
ソフト部だった子にお願いして、エリの同級生からエリの実家の番号を聞いといて欲しいと頼んでおいた。線香くらいあげときたいじゃないか。。
数日後、LINEで連絡先がきたので早速実家にアポを取ってお邪魔することになった。
エリの実家までは中々の田舎道だった。民家もまばらで田園風景が胸に刺さる。そりゃ真っ直ぐ育つよな…この環境は…そんなことを感じながら教えてもらった住所に着く。
敷地が広い。さすがに東京とは違いすぎる。なんとなく羨ましいと感じた。住む。生活する。って意味自体改めて見直したい気持ちになった。
「ごめんくださーい。お電話差し上げた伊藤と思うします。」
「はいはい。」
ドラマのようにエプロンで手を拭いながら小走りで母親らしき女性が迎えてくれた。
「北高時代の友人でして、訃報を知らずにいたのですが昨日同窓会で旧友から聞きまして手を合わさせていただきたくお邪魔させていただきました。」
「まあまあ、それはわざわざすみません」
間近で見ると間違いなく母親だ。彼女が年齢を重ねたらこうなるだろうな〜と想像がつくくらい似ている。
「どうぞこちらになりますのでお上がりください」
家の雰囲気が暖かい。家の雰囲気と彼女の雰囲気が見事にハマる、仏間に通され遺影を見るとそこには屈託のない笑顔の彼女がいた。いつの写真だろう?僅かに見える胸元から弓道部の時の写真かもしれない。
「これは部活の時の写真ですか?」
思わず聞いてしまった。
「そうなんですよ。部活で大会で良い成績だった時の写真で笑顔が良かったものですから…伊藤さんはどちらからいらしたんですか?」
「そうでしたか…素敵な笑顔ですね。私は今は東京に住んでおりまして、縁あって同窓会やることになり帰省してきたんです。」
「そうでしたか…それは遠いところをわざわざありがとうございます」
「いえいえ。高校時代に僕が部活をサボってよく弓道部にお邪魔してまして、たまに帰宅時に一緒になったりとよくお話しさせていただいてましたから私としても手を合わせたくてお忙しい中すみません」
「とんでもない!30年経ってからでもわざわざお越しいただけるなんて本人も喜んでいますよ。」
スーッと障子が開き40前後と思しき女性が挨拶してくれた。
「妹とあすみです。姉が生前お世話になりましてありがとうございます。」
「あ、妹さんなんですね!よく似ていらっしゃる…というか、皆さん似ていらっしゃいますね」
「よく言われます」
2人はよく似た仕草で笑った。
「伊藤さんってもしかして陸上部の…?」
話が聞こえていたらしい妹さんから聞かれた。突然身バレしたような気持ちに何故だかなってしまう。
「はい。陸上部でした」
「あ〜あの伊藤さんだったんですね。じゃあ姉も大喜びですよ!今日は」
「姉と私は3つ違いなんですが、2人とも年頃だったのでよく恋バナしてたんです。姉は伊藤さんに好意があったんですよ。ご存知でした?」
少しイタズラっぽい笑顔でぶっ込まれたw
「え?あ、もしかして…という気持ちが無いでもありませんでしたが僕もまだまだ幼かったので…」
「あの頃の恋愛って曖昧さが良いのですよね笑」
恋愛ネタは年代変わらず…な感じだ。
「あぁ〜あの伊藤さんか!エリはよく話してたね!よく話に出てきたのでハッキリ覚えてますよ。繊細なのに優しいから好きだって」
母親まで参戦し、何とも言い返せず困った。。。
「あの子は伊藤さんとドライブ行くの楽しみにしてたんですよ。約束したの?って聞いたらしたと思うけど連絡先わからないから行けないかもしれない…って…」
胸がキュッと締め付けられる。
「あ、誤解しないでくださいね。事故はあの子の責任でもなければ伊藤さんの責任でもありませんから。ただただ運悪く巻き込まれただけですから。」
僕の心情を慮ってくれている。。でもそれってやはり僕のことだったのか?何か返事したいのだけれどもあぁ言おう、でも…と上手く言葉にならない。
「あの真っ直ぐな屈託のない笑顔が好きでした」
思わず口を出た。
「何と言ったらいいかわかりませんが、話しているといつも素になれるというか、上手く言えないんですが下校時にたまたま一緒になって帰る時とか何かがつながってるような感じでした。」
何だか自分でもわからないが突然後ろから大波に襲われるように止まらなくなってしまった。
「幼い自分ながら、もし僕が何か失敗しても許してくれそうで、僕はプライドが高くて人前で泣けないのですが、泣いてもそのまま受け止めてくれるような気がしてたり…」
気がつけば子どものように涙が溢れていた。2人は黙って僕の思いを聞いてくれていた。
「僕は彼女が好きだったのかもしれません…今になってしょうもないことなのに。。。でもその当時はよくわからなかったんです。本当に好きってものが…」
綾ちゃんのことだったり、今まで好きだったと思いこんでいた気持ちがハッキリした。生まれて初めて口に出してみたことであぁ、そうだったんだ…というのが自分で確信できる。自分の気持ちを誤解するなんてそんなこと有り得ない!と思っていた。若さゆえか、人は自分が見たいものしか見れない思い込み、先入観に惑わされるのか。
「そうでしたか。娘も幸せだと思います。伊藤さんにそう思っていただいて。。」
2人ともつられたのか涙を流していた。
「あ、お母さん、アレ見せてもいいかな?手紙」
「あ、アレか!見てもらいなさい。30年も届かなかったんだから」
手紙?別の部屋に通された。
「ここは姉と私の部屋だったんですよ。よく此処で恋愛の話とかアイドルの話とかしてたんです。姉は明るい性格の割に恥ずかしがり屋なとこもあって、伊藤先輩に渡したいって手紙書いてたんですけど出せなかったみたいで。私たちも姉の気持ちがこもったものは捨てられなくて…」
「そんな、本人の秘密みたいなもの見ちゃっていいんですか?」
「もう時効ですよ。姉にもいい供養になります」
そこには3通の手紙があった。本人も書いたには書いたけど渡せず、捨てられずにいたのかもしれない。チャンスがあったら渡そうとしてたのかもしれない。
女の子らしい封書を手に取った瞬間、突然あの子の匂いがするような気がした。
何度かつけたり剥がしたりした跡のあるハート型のシールを破かないようにそっと開ける。彼女らしいキレイな字。女の子っぽい丸文字ではなく、書道のようなシャキッとしたキレイな字だ。
伊藤先輩
いきなり手紙もらっても困りますよね。でも先輩が卒業する前に伝えたかったんです。
たまに一緒に帰れて嬉しいかった❣️先輩が部活終わるタイミングいつも見てたんですよ。でも先輩はサボってばかりの不良(ウソですよ!)なのですごい大変でしたよ!
先輩と話す時はドキドキして舞い上がってました!バレバレでしたよね!?私すぐに赤くなるし…
でも先輩は赤が好きでしたよね!だからヨシとしておきます!
ゴメンなさい。迷惑なのはわかってます。先輩に好きな人いるのも知ってます。弓道部から陸上部って見えちゃうから先輩を見てると先輩がどこを見てるのかわかっちゃうんです。それに気がついた時は矢に刺されたような気持ちでした。
でも、私は先輩が好きです!
先輩が好きな人いてもそれが先輩だし、先輩が優しい人なのは変わらないし。だから好きです。先輩が私を好きじゃなくても構いません。ただ伝えたかったんです。
先輩は大人ですよね!何かツラいことがあっても表に出さなかったですよね。でも私は気がついちゃうんです。あ、何かツラいことあったんだろうなって。先輩は自分が思ってるよりも多分繊細で、小さなことでも心痛めちゃう優しい人だと勝手に思ってます。勝手に思ってますけど、多分そうなんです。
私は何ができるかなー?って。
何も出来ないけど笑わせたいなーって。
先輩の笑った時に出来るエクボが見たいなーって。
彼女にしてくださいなんて言いません!東京に行っても頑張ってくださいね。先輩ドライブ約束しましたよね?だから連れてってくださいよ。じゃないと私が連れていきますよ!
あ、でもどうやって連絡とればいいんだろう…東京で住むとこ決まったら番号教えてくださいね!
可愛い弓道部のエリ
ずっと胸が痛かった。読んでる最中ずっと。高校生の時にちっさい手紙が回ってきて色々アンケート取られたのはそうだったのか。そのつながりか。。。手紙には高校生2年生の彼女と卒業前の僕がいた。アラフィフの肉体を持った僕は高校生だった。
当時の自分の両肩を掴んで目を覚まさせたい気持ち。でも何も届かず、何も出来ない。感情そのものが大きくなり膨張してるのにただその場に立っていることしか出来ない僕は彼女への沢山の言い訳を浮かべることしか出来なかった。
「ありがとうございます」
「もう一度手を合わせさせていただいて構いませんか?」
「もちろんですよ」
僕が手紙に目を通す間二段ベットに腰掛けて見守っていてくれた妹さんにお願いする。
仏間に戻って手を合わせる。何分間そうしていたのかわからないが3分ほどだったろうか。顔を上げるとそこには笑顔の彼女が当時のままそこにいた。
ずっと高校生のままか。。。時は過ぎる。僕には30年の時が過ぎた。今の生活に不満も無ければ後悔もない。むしろ出来過ぎてるくらいの人生だと思う。高校生時代はとても楽しかった思い出があるし、たまに夢にも見るくらい。心のどこかであの時のような時代を過ごす時が来るような気がしていた。
もちろん時が戻ることがないのは嫌という程わかってる。でも何となくそう感じていた部分があった。
それは間違いだった。大間違いだった。
僕はやり直したかったんだ!これをやり直したかったんだ。
自分でもいまいちハッキリしなかった高校生の自分の気持ち。今ハッキリわかった。僕は彼女が好きだったと。
大して気にも止めてなかった分向かい合ったことなどなかったけど、気管に入りこんだ粒みたいにいつも何処かで引っかかっていたんだろう。だからあの当時の夢を沢山見てたのか。
僕は自分の人生に100%向かい合っていたつもりだったけど今はわかる。今は本当に向かい合える。今まで感じたことがないくらいに清々しい気持ちで改めてお母さんと妹さんに頭を下げた。
「本日は突然お邪魔してしまいすみませんでした。本当にありがとうございます。今日は僕にとって素晴らしい日になりました。」
「いえいえ〜!こちらこそエリも大喜びしてると思いますよ!伊藤さんも娘を想ってくださっていたのがわかって親娘共々嬉しい日です。」
再度頭を下げて帰宅することにした。
帰り道の田園風景は僕には先程よりも優しく映って見えている。
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