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松山英樹の20代最後のマスターズに期待

松山英樹がマスターズ前週のバレロテキサスオープンを通算3アンダー30位タイで終えた。初日は首位と3打差の5アンダー4位タイと好発進だったが、2日目以降はスコアを落とす苦しい展開で、なかなか上位に食い込めない日々が続いている。

ただ、今年のマスターズは松山にとって特別な思いがあるような気がする。もちろん、マスターズという大会自体が特別な存在なのだが、今年はローアマチュアを獲得してから10年の節目だ。

ローアマチュア獲得から10年

2011年のマスターズで、当時19歳だった松山はアジアアマチュア選手権優勝者の資格で初出場を果たし、通算1アンダー27位タイに入ってローアマチュアを獲得した。表彰式でシルバーカップを受け取るシーンは、今でこそ名場面として語り継がれているが、松山はマスターズに出場していいのかどうか直前まで悩んでいた。

東日本大震災から10年

なぜならば大会の1カ月前に東日本大震災が発生。在学中の東北福祉大学の所在地である宮城県仙台市をはじめ、東北地方全域が地震と津波で甚大な被害を受けていたからである。周囲の声に押されて出場を決断した松山は日本人初の快挙を達成し、被災地に勇気を与えた。いや、むしろ被災地への思いが松山の潜在能力を最大限まで引き出したのかもしれない。ここから松山の快進撃が始まった。

この年の11月に松山は日本ツアーでアマチュア優勝を達成し(三井住友VISA太平洋マスターズ)、2013年にプロ転向。プロデビュー2戦目のつるやオープンでプロ初優勝を挙げると、6月のダイヤモンドカップゴルフ、9月のフジサンケイクラシック、12月のカシオワールドオープンで年間4勝を挙げ、賞金王に輝いた。

PGAツアー5勝

2014年からは戦いの舞台をPGAツアーに移し、6月のザ・メモリアルトーナメントでPGAツアー初優勝。世界でも十分に通用する実力を見せつけた。

2016年2月にはウェイストマネジメントフェニックスオープンでPGAツアー2勝目。10月にはWGC HSBCチャンピオンズで2位に7打差をつける圧勝。準メジャーの位置づけである世界ゴルフ選手権シリーズでPGAツアー3勝目を挙げた。

2017年2月にはウェイストマネジメントフェニックスオープンで大会連覇を果たし、PGAツアー4勝目。丸山茂樹のPGAツアー3勝を上回り、日本人最多勝利記録を更新した。8月のWGCブリヂストン招待では最終日に9アンダー61のビッグスコアをマークし、PGAツアー5勝目を華々しく飾った。

メジャーで7度のトップ10

その翌週の全米プロゴルフ選手権ではメジャー初制覇の千載一遇のチャンスが訪れた。第3ラウンドを終えて首位と1打差の通算6アンダー2位タイにつけた松山は、最終ラウンド中盤で単独首位に躍り出たが、11番ホールからの3連続ボギーでスコアを落とし、優勝したジャスティン・トーマスと3打差の通算5アンダー5位タイに敗れて涙を流した。

あの戦いを見て、日本人の誰もが2017-2018シーズンこそは松山がメジャー初制覇を達成してくれるはずだと思ったに違いない。

ところがその日から、歯車がかみ合わないもどかしい日々が始まってしまった。コンスタントに予選を通過し、優勝争いにも時折、名を連ねるものの、勝利にはなかなか手が届かない。2017-2018シーズンは21試合に出場し、プレーオフシリーズ最終戦のツアー選手権まで進出するも未勝利。2018-2019シーズンも24試合中7試合でトップ10フィニッシュを果たしながら未勝利に終わった。

2019-2020シーズンはPGAツアー日本初開催のZOZO CHAMPIONSHIPでの勝利が期待されたが、優勝したタイガー・ウッズに3打及ばず通算16アンダー2位に終わった。その後も好調なプレーを見せていたが、2020年3月に新型コロナウイルス感染拡大のためツアーが中断。6月に再開したものの、一度狂った松山の歯車がかみ合うことはなく、3シーズン未勝利のまま2020-2021シーズンを迎えることになってしまった。

2020-2021シーズンは新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となった全米オープンとマスターズが9月と11月に開催される異例のスケジュールとなった。その全米オープンで松山は第3ラウンドを終えて首位と5打差の通算イーブンパー4位タイにつけたが、最終ラウンドで8オーバー78とスコアを落とし、通算8オーバー17位タイに終わった。

マスターズでは第1ラウンドと第2ラウンドで4アンダー68をマーク。首位と1打差の通算8アンダー6位タイで決勝ラウンドに進出したが、第3ラウンドと最終ラウンドでスコアを伸ばすことができず、通算8アンダー13位タイで大会を終えた。

だが、2020-2021シーズンはマスターズと全米オープンがそれぞれ2回ずつ開催される特殊なシーズンだ。そして1回目のマスターズと全米オープンを戦い終えた後の2021年2月25日に松山は29歳の誕生日を迎えた。20代で戦うメジャートーナメントは残り4試合になる。

21歳で全米オープン10位タイ、全英オープン6位タイに入り、23歳でマスターズ単独5位になったとき、この若者は20代のうちに必ずメジャー制覇を成し遂げると多くの人が期待した。その後も2016年マスターズ7位タイ、全米プロゴルフ選手権4位タイ、2017年全米オープン2位タイ、全米プロゴルフ選手権5位タイとメジャーで7度のトップ10フィニッシュを果たしながら、頂点にはあと一歩届かない。

もちろん20代でメジャーに勝てなければ、一生メジャーに勝てないわけではない。世界ランキング1位のダスティン・ジョンソンだってメジャー初勝利は30代になってからだし、アダム・スコット、ジャスティン・ローズ、セルヒオ・ガルシアらも30代で悲願のメジャー初制覇を達成した。

ただ、今のPGAツアーはブライソン・デシャンボーやコリン・モリカワといった松山よりも年下の選手たちがメジャーを勝ち始めている。松山よりも世界ランキング上位でメジャー初制覇を狙う若手選手も増えている。

だが一方で、今年のマスターズは東日本大震災から10年。ローアマチュアを獲得してから10年。他の選手とは比べ物にならないくらいの強い思いが松山の胸の内に宿っているはずだ。大会直前にオーガスタナショナル女子アマチュア選手権で梶谷翼が優勝したことも、松山と同じく2016-2017シーズン以来、勝利から遠ざかっていたジョーダン・スピースの復活優勝も大きな刺激になるに違いない。

渋野日向子が2019年8月にAIG全英女子オープンでメジャー制覇を果たし、海外メジャーに関しても女子の大会に大きな注目が集まる中、松山がこのタイミングで偉業を達成してくれそうな気がしてならない。


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